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WATERMARK JOSEPH BRODSKY

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旅行記を読むと旅に出たくなる。
しかし、それは賢明ではないだろう。

学生時代、休みのたびに旅に出かけた。
大きなバックパックを背負って、長期間、無計画に、さまざまな国へ、、、。
だから、私は知っているのだ。
旅の殆どは猥雑なものに満ち溢れ、思うようにいかず、
様々な種類の不安を味わい、異質なものには、なかなか馴染めない。
私はパッケージツアーで、旅行に行ったことがない。
それでも、懲りずに旅に出掛けたのはなぜだろう?
まだ見た事の無いもの、感じた事のない感覚を経験する為?
稀に、突如、偶然にも、前触れも無く、訪れる感動や喜びを期待して?  
、、、不明、、、
ひとつだけ言えるのは、旅は旅それぞれだということ。
旅に出てみなければ、解らない。

 ヨシフ・ブロツキーの「ヴェネツィア」は、詩人の旅の印象記だ。
ヴェネツィアの水と光を背景に、浮かび上がる印象、美しいアフォリズム、
私的な告白、自己探求などが、随所に散りばめられている。
それは、一見無秩序なようでいて、まるで音楽のように美しく絡みあう。
まるで、夜のオーケストラみたいに、、、、。

 「ヴェネツィア」は、詩としても、小説としても、旅行記としても、
至極の一冊だ。高級だけれども気取りが無く、まるで素材そのものといった、
シンプルさで描かれている。

 私は「ヴェネツィア」を読返すたびに、旅に出たくなる。
実際、ヴェネツィアには、何度も行った事がある。
私の旅はいつもあまりに、観光的で、トラブルと隣り合わせだ。
ホテルの予約がとれていなかったり、
美味しいのか不味いのか判然としないようなパスタを
度重なる停電の中で食べたり、
ゴンドラに乗ったはいいが、多額の料金をぼったくられたり、、
そんな感じだ。
詩的で幻想的な要素はほんの少ししかない。
、、、、、勿論、少しはある。

 私が「ヴェネツィア」に強く惹かれるのは、
その美しいヴェネツィアという場所から受ける印象だけではなく、
詩人ヨシフ・ブロツキーの創作の過程が、現場が、
その秘密が描かれているからだと思う。
ノーベル文学賞をも受賞している天才詩人のそのあまりの無邪気さに、
真っ直ぐさに、シンプルさに感動するのだ。

 ヴェネツィアは背景でしかない、
しかし、それは水彩画のように幻想的で美しい背景なのだ。

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by holly-short | 2006-05-03 15:00 | book review
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