上質な遺伝子 21

 私は、お客の話を聞き、お客が望むような旅行プランを提案する。
車で行くのか?電車で行くのか?電車であれば、グリーン席か?
禁煙席か?喫煙か?宿泊先は?旅館を希望しているか?ホテル
でいいのか?部屋は?和室か?洋室か?はたまた和洋室か?ベッドは、
ツインか?ダブルか?海外旅行であれば、ツアー?かフリー?か、添乗
員は必要か?希望の渡航先は?希望の旅行パックは?部屋は海が見え
るほうがいいのか?ホテルの朝食は必要か?トランジットに問題はない
か?オプショナルツアーは?予算は?などなど膨大な質問をする。
お客様は、膨大な選択枠の中から、それぞれを選ぶ。
もちろん、それと同時に多くの質問も投げかけてくる。露天風呂はある
のか?温泉は源泉か?家族風呂は?部屋食可能か?別途注文は?
メニューは?カラオケはあるのか?サウナは?プールは?ホテルの近く
のお勧めのレストランは?現地の天候は?治安状況は?はたまた、
チップはいくらくらい払う必要があるのか?まで、様々な、お客様の
疑問をひとつひとつ解決し、ご納得していただいた上で、すべての
旅行が組まれていく。いつでも。大まかには。
 私たちは次々に現れ、時には長い列を作るお客、ひとりひとりの要望
に耳を傾け、疑問に答え、質問をし、プランを練る。予約状況を調べ、
予約を入れ、確認し、料金を計算して、請求する。そんな作業を、
何度も何度も繰り返す。まるで山積みにされた荷物をそれぞれの場所
に、それぞれの指定された方法で、ひとつひとつ運ぶみたいに。現実的
には、待ちくたびれたお客様が怒り出したり、旅行プランを書き込む
カルテが紛失したり、お渡ししたクーポンに大きな誤りがあったりして、
作業は、すぐに滞ってしまう。それでも、私たちは、滞ったラインを建て
直し、あらゆる可能性を探り出し、作業を進めなければならない。是が
非でも。それが仕事だから。山積みとなった仕事をスピーディーに、
正確に処理しなくてはいけない時、私は、頭の中で映画「未来世紀ブラジル」
ザビア・クガートの「ブラジル」を唱える。まるで、なにかのおまじないの
ように。そして、私は、ある情報省に務める記録係だと思ってみる。
次から次へと放り込まれる指令を、決められたルーティンに沿って、次々と
処理していく。それが私の役割だ。完璧に情報管理された組織の中で、
私は、大きな流れの中のほんの一部に過ぎない。私の元に、書類がくる。
私は、瞬時に的確な判断をして、判断というより、むしろ認識と言った方が
正しく、そして、的確に処理していく。「ブラジル」の能天気で緩やかな
リズムに合わせて。私はまるで機械の一部にでもなったかのような気持ちに
なってみる。そして、それは、そんなに悪くない気分だ。

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by holly-short | 2006-08-25 23:25 | 上質な遺伝子
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