本当に丁寧に作り込まれた映画で、すべてのクオリティが高く洗練されつつ、絶妙に調和している。映像は美しいく、音楽も素晴らしい。ヒース・レジャーをはじめ俳優たちの演技も冴え、作品にしっくり馴染んでいる。アン・リーの監督としてすべてをまとめあげる手腕は、正に職人技で、なんてー素晴らしいんだ!!と思わず感動しちゃった。(作品よりも、むしろそこに。でも、勿論作品にも)私はもうすでに、イロイロな所でイロイロなレビューを読んだのだけど、、、この映画の場合、見る人によって解釈がかなり異なるとこがスゴク面白いのだな。そして、それぞれが皆「そうかも〜」と思わせるように映画自体も微妙なさりげない余韻を随所に感じさせている。明確な答えを与えないような作りになっているのは、小説の気質によるものでもあり、アン・リーの仕掛でもあるんだろうけど、、、そのさじ加減なんとも言えないのだ。 (以下、超ネタバレバレで~す。) 明確には描かれていないけど、ワタシ的にはイニスもはじめから自分には男性が好きになる傾向があると、多少認識していたんじゃないかな?って思ふ。幼い頃から男性に強く惹かれてしまうような趣向を持っていた。だからこそ幼い頃の記憶、同性愛者への虐待、死刑さながらのリンチの現場、無残な状態の遺体を父親に見せつけられたことが、大きなトラウマになった。社会的にも認められず罰せられるべき存在だった同性愛者の要素が自分自身にあるという脅威、それこそが彼のトラウマだったんじゃないかと、、、、。同性愛者へ対する虐待は、当時の社会では歴然と存在していた訳で、同性愛者自体の存在だってレアではなかった。だからこそ父親は幼いイニスへ教育の一環と称してそれを見せたのだろう。しかし、自分自身にもそういう傾向のあったイニスにとって、それは人事ではなく、大きな心のトラウマとして彼自身に深く根付いてしまった。だからこそイニスは、自分を偽って生きてこざる負えなかった。しかし、BROKEBACK MOUNTAINでジャックと出会う事によって、本来の自分自身を思わず開放してしまった。それまでは男同士、カウボーイのがさつともいえるやり取りが繰り広げられ、美しい大自然をバックに辛い労働に汗を流し、煙草もくもくMarlboroManさながらなんだけど、、、ある夜を境に2人の関係は急激に変化し、深く結ばれてしまう。その変化が映画の流れの中であまりにも唐突なので、きっと「同性愛」が絡む映画だってことを認識していなかった人にとっては、(そんな人いるのかなあ?)「え?え?え?えー!!!?」って感じかもしれないけど、でもきっと現実ってそんなもんなんじゃないのかな?と思う。しかも、2人の愛は禁じられた愛。お互いそれを痛い程認識しているからこそ、平然を装い自分の気持ちに蓋をしていたのだと思う。だいたい日常生活ってそんなもんだし、イニスにとってはそれこそがそれまでのイニスの日々だった。しかし、一線を超えてしまったことでイニスは偽りのない自分自身の性(さが)に目覚めてしまう。ありのままを曝け出し、それを受け止めてくれるジャックとの愛。ふたりはBROKEBACK MOUNTAINという社会から隔離された場所で、すべての規制から開放され、タブーやトラウマを乗り越えて愛し合った。はじめから自分を同性愛者であると認識していたジャックにとっては、愛すべき最良の伴侶をイニスに見出したのだろうけど、、、イニスにとっては、それだけではなく、それと共に本来の自分自身の発見というところがとても大きいのだと思う。勿論、ジャックへ対する「愛」もテーマになっていて、そういう意味では「恋愛映画」とも言えるのだけど、、、それだけに終わらず、それ以上にイニスの「自分探し」こそがテーマになっているのかな?と思う。結局、イニスは、アルマを不幸に陥れ(一番不幸なのはこの人だよう、、、)子供たちに苦労をかけ、最愛の人ジャックのことも真に受け入れることが出来ず、二十年という長い歳月もの間、(mmm時間って残酷だ)自分自身を中途半端に騙し続けて生きてきてしまった。年に数回のBROKEBACK MOUNTAINでジャックと過ごす日々を除いて、、、、。ジャックが他の男と関係を持ったことを知り、涙を流すイニスの演技、思わずグッときた。男涙で、イニスが背負ってしまった苦しみ、苦悩、いたたまれなさが痛切に感じられた。やはり、ヒース・レジャーにアカデミー賞を!って思っちゃう。ジャックが不慮の事故で亡くなったことを聞いたイニスは、フラッシュバックのように過去の自分のトラウマであったリンチの場面を思い出す。これはジャックの死が彼にとっては、同性愛者であるが故の罰のように思われたからだろう。そして、ジャックの遺言であった「BROKEBACK MOUNTAINに自分の遺骨を撒いてほしい」というイニスとしては嬉しいとも思えるジャックのメッセージを実行すべくジャックの実家に足を運ぶ。このジャックの実家でのシーンがこの映画の鍵を解く肝になっているのだとワタシは思ふ。はじめて見た時BROKEBACK MOUNTAINに遺骨を撒くことを断ったジャックの父親は、同性愛者に対する非難からイニスの申し出を拒否したのか?と思ってみた。しかし、それはしっくりこなくて、2回目見てイヤイヤ彼は同性愛者である息子を本当の意味で受け入れたからこそ、自分たちのお墓に息子の遺骨を埋葬しようと考えたんじゃないかって気がついた。だからこそ、イニスに対して、息子はいろいろ夢を語っていたけど、、、夢はひとつも実現しなかった。と息子の無念を告白したんじゃないかな?。息子と同じ境遇に立たされているイニスに息子を重ね合わせているようにも思える。そして、ジャックの母親がイニスに投げかける視線は、とても柔らかく、まるで息子を見つめるかのようだ。イニスは、20年前のBROKEBACK MOUNTAINでなくしたと思っていた自分自身のシャツがジャックのシャツに抱しめられるように架かっていたのを目撃する。ジャックの自分へ対する愛への安堵と喜び、そしてそれ以上に、その愛を真に受け止められなかった自分自身のやるせなさに大きなショックと憤りを感じたのだろう。結局それまでのイニスは、BROKEBACK MOUNTAINで過ごす一時のみが真実の時間で、それ以外では、周囲を欺き、拒否し、犠牲にし、傷つけ、自分自身をも欺きながら身を潜めるようにひっそりと生きてきたのだ。そして、それはジャックが亡くならなければイニスにとって、真の意味で身をもって感じることが出来なかった。とてもせつなく、やるせないのだが、多分それはジャックの両親にしても同じだったのかもしれない。しかし、ジャックの死こそが、イニスをありのままの自分でBROKEBACK MOUNTAINから下山させたんじゃないかな?ありのままの自分を受け入れることが出来たからこそ、ラストのシーンでもうジャックがいないにもかかわらず郵便ポストを作り、自分の所在を示すプレートを貼り付け(この解釈があってるかどうかは知らないけど、、、こういう細かい部分がさりげなくきめ細かいの、、、)今まで引け目を感じて行くことが出来なかった教会へも、娘の結婚式への参加の為とはいえ行くことを決意できたんじゃないかな。彼はありのままの自分自身を許したのだ。ラストのシーンで、ジャックの部屋から形見わけされたシャツ、今度はイニスが抱しめるように掛けられている。そして一言呟く言葉が、、、"I swear,,,," (オレは誓うよ、、、、)なのだが、、、、、、。 し、しかし、、、、なぜか字幕では「ジャック、オレは永遠に君と一緒だ。」みたいになってるのはどうして?これってけっこう意味が違くなーい?一生の愛をいまさらジャックに誓ってるみたいじゃん。それってちょっと陳腐じゃない?ワタシ的にはイニスが誓ったことは、ジャックに対する愛ではなく、自分自身を偽らず生きていくことを誓ったんだと思う。そういう意味では、ジャックとの関係がイニスに勇気と生きる希望を与えてくれていることは確かで、愛した男との思い出の品が愛しいのは解かるものの、それはイニスにとってお守りみたいな存在で、イニスだって、その後ジャック以外の新しい恋人を見つけてもいい訳だ。実際ジャックは、イニスと頻繁に会えないもんだから、他所に男性の恋人を作ったり、男娼を買ったりしているじゃーん。人間って悲しくもそんなもんじゃないかな。。。まあ、本当にジャックを胸に今後生きていくのかもしれないけど、、、、それは生きてみないと解からないわけで、、、、。どっちでもいい気がする。だからこそ、、、最後は曖昧に放り投げてほしかったのだな。。。それなのに、ジャック一筋?みたいにしてしまうラストの字幕にはちょっと疑問を感じた。しかし、イニスの人生は今後もいろいろ大変そうなのだな。。。いまやっと自分自身の本来の姿で生きていくって僅かながらに決意をしただけで、、、、実際それで生きていくとなれば、時代的にみても様々な試練があるのだろう。しかし、それはイニスにとって、とても大きな第一歩になったのだ。 まあ、ダラダラと自己満足驀進で書きつづけたレビュー、ワタシの理解力がいか程なのかは疑問だけど、、、とにかく1つの作品としてのクオリティの高さ、完璧に近いくらいに作り込んだ上での自然な美しさは、作り手が創造した以上の効果を見るものに与えていると思うな~。そして、その効果は画一的ではなく、多様なのだな。そして、ワタシはそれこが素晴らしいと思う。さて、映画のレビューを書き終わったところで短編集を読むぞ〜mmm書き過ぎて眠くなって来た。。。zzz push! blog ranking!!!
by holly-short
| 2006-11-07 23:29
| movie
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