カテゴリ:「お題小説」( 7 )

「お題小説」、、、、

今回、正直メチャクチャ微妙です。
テーマからもなんだか外れちゃってるし、  テーマ → 「外仕事の兄ちゃん、鳶職っぽいニュアンス」
全体的にうまく書けませんでした!
はじめっから、どんな話にするかっていう軸がなかったんで、(結局浮かばなくて、、、)
だらだら書いていたらなんだか締まりの悪いお話が書けちゃいました。
全然自信なく、期日が来たのでupしちゃいます。
あーなんだかこれを読んで頂くのも気が引けるなああ。。。と思いながら、、、
読みやすいったら、読みやすいと思うのですが、、、、、、、どうだろう。。。。
ああーなんか嫌だなー。まーしょうがないか。。。。弁解が多すぎますが、、、、
批評は多いに受け入れます!どーんと来い。

とりあえず期日通りのupつーことで、、、、、、。

「お題小説」
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by holly-short | 2007-09-15 23:38 | 「お題小説」

うしなう。

 どこかを離れる時、私はいつでも清清とした気分になる。むしろ胸をなでおろすという表現の
方が近いかもしれない。それはそこで培われた面倒な人間関係、惰性で通う学校、もしくは仕
事、お決まりの風景、そんな退屈な日常が綺麗さっぱりと清算されるような気がするからだろ
う。新しいところはいい。それがいかなる場所であれ、何かしらの希望を抱くことが出来る。た
とえそれが刹那な幻想であったとしても、私はそこに解放を求めることを諦めることが出来な
い。それは新しいノートを購入する行為にも似ている。まっさらな装丁の美しいノートを購入す
る時、私はそこに丹念に綴られた有意義な日常を想い浮かべる。みっしりと丁寧に書き綴られ
た文字の存在感。私の手の中で、それは使い古されたノートよりもはるかに重く愛しい。

 時間に余裕があると、私は何からはじめたらよいのかまるで解からなくなってしまう。朝食を
食べ、祐一が会社に出かけてしまうと私はしばし途方に暮れる。朝食の後かたづけもせずに
呆然とソファに腰かけて見たくもないワイドショーなどを眺めていたりする。読みかけの雑誌を
パラパラとめくる。掃除機をかけなくちゃと、埃っぽいフローリングを眺める。洗濯物を干さなく
ちゃと重い腰をあげる。コーヒーを煎れ、煎れたことを忘れ、すっかり冷えた苦く酸っぱい液体
をぐびぐびと一気に流し込む。買い物リストを作る。部屋のインテリアについて考える。寝室の
ランプシェードをもっと素敵なものに変えようとか。あっちとこっちの棚を交換しようかとか、ソ
ファの位置を変えるべきか否か等について。簡単な昼食を食べ、ようやく掃除機をかける。
隅々というわけでなく丸く掃除機を滑らす。夕方になる前に、買い物に出かける。喫茶店でコー
ヒーを飲む。読みかけの小説にしばし没頭する。推理小説や恋愛小説。買い物を終え、帰宅
し日も暮れた頃になると夕食を作り始める。鰈の煮付け。大根と帆立貝の辛子マヨネーズ和
え。トマトと青ジゾのサラダ。牛肉とブロッコリーのオイスターソース炒め。海老とかまぼこと銀
杏の入った茶碗蒸し。一通り作って性凝りもなく沢山作り過ぎてしまったことを反省する。祐一
は少食なのだ。食卓に沢山のおかずが並ぶことを好まない。祐一が帰ってくるまでの間、ビデ
オを観て過ごす。祐一と私の結婚式を映したもの。私はこれを何度でも繰り返し観るようにし
ている。落ち着くからだ。祐一の帰ってくる時間はまばらで、早かったり遅かったりする。

 「僕は彼女の何に対しても一生懸命取り組む姿勢がとても好きです。今回この式を開くにあ
たっても、彼女は一生懸命に最善を尽くしてくれました。、、、彼女は明るくいつも僕を、、、、、
今後も二人で協力しあって温かい家庭を、、、、」私はこの結婚の誓いのシーンにくると思わず
画面に見入ってしまう。結婚の誓いだなんてなんて陳腐なんだろうと、祐一の台詞はなんてあ
りきたりなんだろうと思いつつ、私はそれを凝視し、耳を澄ます。まるで今まで見損なっていた
ちょっとした微妙なニュアンスを発見しようとでもするように。画面の中で白い燕尾服に身を包
んだ祐一はとても男らしく幸福そうに見える。画面の中で横に寄り添う私もそんな彼を幸せそう
に見つめている。何人からの招待客が挨拶とお祝いの言葉を次々と述べ、私がお色直しを済
ませ、淡いブルーのカクテルドレスを着て、恥ずかしげもなくスポットライトを浴びている頃、
祐一は小さく「ただいま」と言って帰宅した。私は素早くテレビを消して夕食を温め直す。「おか
えりなさい」と言って祐一に駆け寄る。

 祐一と私は友人の紹介で知り合った。いわゆる合コンというやつだ。祐一は製薬会社に勤めて
いた。寡黙な人というのが祐一の第一印象だった。私はよく喋るので、祐一もつられて喋っ
た。聞かれたからついウッカリという風に。それでも丁寧で誠実そうな物言いだった。とても知
的で、しっかりとした人のように思えた。デートに誘われ、二人で映画を見た。映画の後は、タ
イ料理を食べに行き、その後はオープンテラスの喫茶店でコーヒーを飲んだ。二人きりになる
と祐一は、少し多弁になった。仕事のことや昔見た映画の話、家族に纏わるちょっとした逸話
など面白おかしく話してくれた。三ヶ月つきあって結婚を申し込まれた。私はすぐにそれを承
諾した。

「僕はなんでもいいよ。君の好きなようにすればいい」というのが祐一の口癖だ。新居を探す
のでも、そこで使う家具や品々を選ぶのでも、彼にはまるでこだわりというものが無かった。私
は何でもこだわるのが好きな質なので、こだわりのない祐一とはとても相性がいいと思った。
祐一にとってどうでもいいことは、すべて私が決めればいいのだと。ソファも食卓も絨毯も朝食
を食べる食器もすべて私の好きなもので取り揃えた。私は自分の好きなものだけで構成さ
れ、埋め尽くされた空間に嬉々と舞い上がり、そこで繰り広げられる幸福な日常を頭に描いた。

 祐一はとても優しい。ずっとそう思っていたし、今でも心からそう思っている。結婚して少しし
てから私達は地方都市に引っ越した。私はあっさり仕事を辞めた。幼い頃から何度も転勤を経
験していたので、仕事を辞めることにも新しい場所に移動することにも何の躊躇もなく、前向き
だった。私は新しい場所で、とりあえずハローワークに通った。すぐに働くつもりはなかった。そ
れでも貰えるものは貰っておかなくちゃと思ったのだった。新しい場所で、もしかしたら私は妊
娠するかもしれないとも思った。それについて私達は一度も話し合ったことがなかった。話し
合う必要も感じなかったし、しかるべき時が来ればそうなるものと勝手に思い込んでいた。し
かし、私はいつまでたっても妊娠しなかった。それは、もちろん祐一がしかるべき処置をしてい
たからだ。ある夜私は「中で出してもいいよ」と思い切って言ってみた。まるでお天気の話をす
るみたいに何食わぬ調子で。すると祐一は「今はまだそんな時期じゃないよ」とポツリと言っ
て、それ以上なにも言わずに私に背を向けてしまった。

 何の稼ぎもなく、日永一日ふらふらしている私自身は役に立たない人間のように思えた。実
際、私は役に立たない人間だった。周囲には友達も家族もおらず、祐一という重しだけが私を
この世にかろうじて繋ぎ留めているような気がした。私はみるみる元気をなくし、夜になるとさ
めざめと泣くようになった。昼間暇を持て余しているので夜は目が冴えて寝れなくなるのだ。
といって独り夜更しする勇気もなく、祐一と一緒に床に就いた。眠りに誘われるまでの途方もな
く永い空白の時間、ふとした瞬間に得体のしれない恐怖に襲われることがあった。それは避け
ようとも、見て見ぬ振りをしても鋭く私を捉えてけして離そうとしないのだ。寂しくて、祐一にと
めどなく話しかけてしまう。「仕事はどんな調子?」とか「将来はどんな風になりたい?」など、答
えようのない馬鹿みたいな質問ばかり。祐一は「仕事は普通だよ」とか「将来なんて、そんな
のなってみないと解からないよ」とか答えてくれる。そんなありきたりな答えに私はけして満足
することが出来ない。「ねえ、私このままでいいのかなあ?」とか「祐一は私にどんな風に将来
なってもらいたい?」なんて言い始めた頃には祐一の反応は次第に希薄に無反応になってく
る。そのうちその希薄さに堪えきれずに愚痴りはじめると「お願いだから辞めてくれ、疲れてる
んだ」と祐一は背を向けて黙ってしまう。私はその言葉に祐一の背中に沈黙に打ちのめされ
る。さめざめと泣く。人は悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだという言葉を思い浮
かべる。そんな筈はないと私は泣きながら深く思う。もちろん悲しいから泣くに決まってるのだ
と。自己嫌悪と恐怖の渦にグルグルと引き込まれる。抵抗を放棄し自らそこに捻り寄る。祐一
は背中を向けたままの姿勢で疲れ果てて寝てしまう。あるいは飽きれて、見て見ぬ振りをす
る。声もなく泣き、いきつくところまでいった頃になると眠りは何食わぬ顔でひっそりと訪れる。
私は無表情にぐったりとそれを受け入れる。

 けたたましく鳴る目覚し時計の音に私は身震いする。祐一が目を開けたので「おはよう」と小
さく口を動かす。祐一は、何も言わず眉間に皺を寄せ、私に背を向け再び寝てしまう。私は
ぐったりと重い身体を起こし、寝室以外のすべてのカーテンを開けて朝食の準備をする。祐一
の好きなホットドックを作り、濃いコーヒーを煎れる。「朝だよ、」と言って祐一を起こす。その言
葉は弱々しくあらぬ方向にくにゃりと曲がってしまう。一瞬間があり、それからのっそりと祐一は
起きてくる。淡々と顔を洗い鬚を剃りパジャマを脱ぎスーツを着込む。そんな祐一を私は恨め
しく思う。恨めしく思う自分をもっと恨めしく思う。自身を恨めしいと思う自分をもっともっと恨め
しく思う。私にもどこか出ていける場所があればもっと強くなれるのにと泣きたいような心地に
なる。祐一は、無言で新聞を読みながら朝食をとる。ちょっと動く度に微かな溜息を洩らす。
私はそれに気づかぬといった風にコーヒーを啜り、読みかけの小説をめくる。無言で。あるいは
めくる振りをする。8時になると祐一は、いつも通りに「いってきます」と呟くように言って、そっけ
なくドアの向こうに消えてしまう。私も「いってらっしゃい」と閉まりかけるドアに向かって無表情に
呟く。まだ一日は始まったばかりだというのに、私はもうすでに途方に暮れ、半ば絶望してい
る。
 
 夜。胡瓜と蛸の酢の物。カマスの焼いたの。茄子と葱のみそ汁。冷奴。ごはん。生卵が食卓
に並んでいる。「いただきます」と二人で言ったきり、後は黙々と食べる。「美味しいね」と私がポ
ツリと言うと祐一も「美味しい」と言って深く頷く。一瞬、顔を見合わせ、すぐに再び互いの椀に
集中する。祐一は、生卵と醤油を掻き混ぜたごはんを啜るように食し「ごちそうさま」と言って
早々にコンピューターへと向いてしまう。ジャーンというコンピューターが立ち上がる音がする。私
は食べ終わった食器を片付ける。片付け終わった後、焙じ茶を二人分煎れて読みかけの小説
を読む。ちょっと読んではパラパラと飛ばし、読んでは飛ばし自分の記憶にない文章に辿り着
くまで早送りにコマを進める。ようやく見つけた未読のページには小さな羽虫が潰れて挟まって
いた。「押し花みたい」と独り呟く。私は小さく干からびたミイラを爪で弾いた。そのうち順番に
風呂に入り、歯を研き、私は布団を敷いた。時間になると、祐一は倒れ込むようして布団に俯
した。私も彼を追うようにのろのろと布団に横になった。横になっても、目を瞑っても、羊を数え
ても眠れない。祐一、と呟くように話しかけたが、返事がなく私はまた羊を数えた。数えること
に疲れ、嫌な予感と忍び寄る感情を無視するかのように、眉間に皺を寄せ、何度でも寝返りを
うち、誰かに抱かれる自分を想像した。想像力は逞しく、私はなんとなく満足して眠りに落ち
た。ストンという風に。

 日曜日。久しぶりに二人で出かけた。「そろそろ背広を新調した方がいいんじゃない?」と私が
言い、「そうだね」と祐一が言ったから。祐一は、私と違って物に執着しない。洋服でも家具で
も住居でも、何でもいいといった風でもあり、今ある物に満足しているといった風でもあった。私
はそんな祐一を足るを知る人なのだと、尊敬した。私自身、結婚して以来、物をあまり買わな
くなった。何もほしがらない祐一に気を使ってということもあったのかもしれないし、むしろ結婚
したからには貯金をして何かに備えなくては、というようなある種のムードに駆り立てられただ
けなのかもしれない。昔みたいな、何が何でもというような物欲は消え、私は人生ではじめて
貯金と言えるようなものを持った。それでも、一緒にショッピングが楽しみたいという思いで祐
一を買い物に誘ったのだ。

 デパートの紳士服売り場にて色々なお店を覗き、「これがいいんじゃない?」とか「あれがいい
んじゃない?」と私は祐一に次々と提案した。祐一はどれを見ても、無関心そうに見つめるばか
りで、試着しようとも、これにしようとも、言い出さず、ただ視線が流れるごとく店舗店舗を渡り
歩いた。はじめは意気揚々としていた私も次第に元気がなくなり、口数も少なくなった。「せっ
かく来たんだから、買えばいいのに」と私がふてくされるように言うと「でも、ほしいのがないん
だ。ほしい物がないのに買うなんて変だろ」と祐一は尤もなことを言い「本屋にでも行こう」と紳
士服売り場を後にした。結局私達は本屋で本を何冊も買い、地下の食品売場に行き汲み上げ
湯葉とお稲荷さん、チョコレートケーキを買って帰った。私は何冊も本を買ってもらったのに、大
好きなチョコレートケーキも買ったのに、帰りの電車で不機嫌になってしまう自分自身がよく解
からなかった。無口に唇を噛みしめ、暗い表情を浮かべた。祐一もそんな私に話しかけるでも
なく、二人並んで電車に揺られた。

 結婚して以来毎日家計簿をつけている。半ば脅迫的に事細かに書き込んでいる。市販の家
計簿ではなく、厚めのノートに線を引いて毎日使ったお金や詳細を箇条書きにする。その日食
べた献立も、ちょっとしたメモも、日記めいた文章や手紙の下書きも書く。家計簿を丹念につ
けている時、私は自分がしっかりしたやりくり上手の主婦であるように感じる。それは私の存在
意義を少しだけ感じさせてくれる。月頭の家計簿の空白に「節約」と大きく書いてみる。「ごは
んを作り過ぎない」とも。「感情的にならない」「祐一を疲れさせない」とも。夕食後、家計簿を
つけながらコンピューターに向かう祐一の背中を見るともなく眺める。私はそれをとても愛しく
失いたくないと思う。
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by holly-short | 2007-05-29 21:07 | 「お題小説」

「お題小説」

blog ranking!
ああ、やっと書き終わつた。。。。
今月の「お題小説」です。
で、いちおう再びR指定?。。。
※※官能小説ではありませんが、それに準ずると思われる不快な表現も含まれているかもしれません。不快に思われそうな方は無視してください。。。(って、読まなきゃそんなの解らないと思われるかもしれませんが、、しかも、ちょっとグロイです。)
文字制限いちおう4000字とのことですが、なんか書いてたら10000字を超えてしまいました。ちゃんと4000字以内に納めました!!!!あは。。それでも、でも、でも長くて読んでられんと思われる方は無視あるいは面倒になった時点で切り捨ててください。自分でも書いてても訳ワカメ??なんて思いつつどうにか書いたものなので。。
「今月のお題」
ここで書きたくないけど、いちおう「私小説」です。
ワタシは、どちらかといえば小説の方に比重を置き、私(ワタクシ)の部分は、そのスピリッツのみを抽象的に表現したつもり。。。そのつもりのつもりってことで、勿論ノンフィクションです.

「お題小説」
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by holly-short | 2007-04-19 00:21 | 「お題小説」

公園にて

 生まれつき赤ん坊は、小さく開いた唇に柔かい突起物が触れると、
反射的にそれを咥え、吸啜運動を行う。こうして赤ん坊は、母親の
乳房から無意識のうちに必然的な成行きによって母乳が与えられる。
母親の乳房から迸る生ぬるいミルクは甘く、柔かい小さな身体にゆ
っくりと染み込んでいく。母親の匂いのついたそれは未熟な赤ん坊
の小さな脳味噌に強い満足感と快楽を与える。そのような過程をと
おしてその行動は強化される。

 夕方の公園。アイシマイクオは、手持ちぶさたで公園に足を踏み
入れた。ポケットに両手を突っ込み、周囲に漠然とした視点の定ま
らない眼差しを漂わす。それでも、しっかりとした足取りで。アイ
シマイクオは、自分が大きな脂肪の着ぐるみを着せられているかの
ように感じる。着ぐるみの小さな2つの穴から外の世界をぼんやり
と覗き込み、現実味のない分厚い表皮の内側で小さく身を潜めてい
る。

 広大な公園の敷地の中央にある広場にはいくつかの遊具が点在し
ている。木製のアスレチックジム、ステンレス製のすべり台、カラ
フルにペイントされたブランコ、全体的に薄汚れた感のある砂場な
どだ。砂場では、母親に連れられた数人の幼児たちが大きな山を作
っている。いや、それは山ではなく大きなお城かもしれないとアイ
シマイクオは思う。プラスチックのシャベルを不器用に握って、大
きく盛り上がった山肌を叩き、周囲を固めつつ上へ上へと砂を盛り
上げてゆく。母親たちは、砂場の脇に小さな丸い輪となって夢中に
話し込んでいる。きっと、夫や子供の話、買いもの等のたわいもな
い情報についてだろう。アイシマイクオは、彼らから離れた木のベ
ンチに腰をおろす。母親達の視線が一瞬彼にさりげなく向けられる。
アイシマイクオはその視線に気づかぬそぶりでポケットからタバコ
を取り出しライターで火をつける。母親たちは、すぐに視線を元に
戻し再び話しはじめる。まるで何もなかったかのように、または彼
をただの通りすがりの男として認識するだけに留めるかのように、
もうそれ以上彼を見ようとはしない。彼の唇から吐き出されたタバ
コの煙は、灰色にどこまでも広がる夕方の公園に吸い込まれるかの
ように立ち昇り、すぐに消失した。

 夕方のタコ公園にて。タコ公園とは、正式名ではなく大きなタコ
のすべり台があるので周囲の子供達はそう呼んでいた。
「ハイ、ツギハアイシマクンガオニネ」と、少女は無邪気に言った。
にっこりと笑って、大きなタコの形をしたコンクリートのすべり台
を指さした。十数名の少年少女らは一斉にイクオから走り去り、そ
れぞれの方向に散らばっていった。イクオは、小さな両手で目をし
っかりと覆い、つるつると堅く冷たいコンクリの弯曲した表面に顔
を伏せた。
「イーチ、ニー、サーン、シー、、、」と、イクオはルール通りに
60まで数を数え、ゆっくりと後ろを振り向く。勿論そこには誰も
いない。広大な公園の敷地のあらゆる場所をイクオは小走りに探し
てまわった。大抵は誰かが隠れているべき大小様々の外部から閉ざ
されたスペースを隈無くチェックする。いくら探しても誰も見つけ
ることが出来ない。しばらく探して、イクオは途方に暮れた。これ
で3回目だと、彼は心の中で呟き溜息を漏らした。彼を鬼にして他
の皆はどこかに消えてしまったのだ。どこかたぶん各自の家や近所
の駄菓子屋か本屋かそんな場所へ。いくばくかの焦燥感に囚われつ
つも、イクオは探すことを容易に辞めることが出来ないでいた。も
しかしたらまだどこかに誰かひっそりと隠れていて、鬼に見つかる
瞬間を待っているかもしれない、そう思ったからだ。イクオはあら
ゆる死角を再び洗い出すかのように公園内を丹念に歩いてまわった。
もう時間はゆっくりと淡々と過ぎていくばかりだ。辺りは薄暗く公
園は灰色の空気に包まれ、ひんやりとしてきた。イクオは突然強烈
な尿意を覚え、木陰に隠れるようにして用をたした。未熟な性器を
右手で支え、尿は弧を描くようにして芝生の上にちびちびと落ちて
いく。
「アイシマクン?」
問いかけるような少女の声が背後から聞こえ、イクオは反射的に彼
女の方を振り向いた。イクオの性器からはまだ尿がちょろちょろと
流れ出ていた。少女の大きな瞳は、それをぼんやりと見つめた。困
惑と軽蔑の表情がそれを凝視した。それでも、イクオの意志に反し
て尿は性器から絶え間なく放出された。
「アノ、ワカッテルトハオモウケド、ミンナモウカエッチャッタノ
ヨ。サガシテモ、モウダレモイナイノ。ソレヲオシエテアゲヨウト
オモッテ、、」と、少女は言いかけて固まった視線をそのままに後
退るようにしてイクオの元から走り去った。小用を終えたイクオの
全身を羞恥心が駆け巡った。それはそのうち不思議なことに快楽の
糸口へと変化した。それはちょっとした興奮のようなものだった。
イクオは用を足した性器をそのまま右手で握りしめ初めて自身の意
志によって射精した。強烈な一瞬の快感がイクオの全身を満たした。
その一瞬、イクオはすべてから解き放たれ自分自身になった。

 アイシマイクオは、タバコを吸い終わると再びポケットに手をつ
っこみ公園を歩いた。幼い幼児の投げたボールがアイシマイクオの
足元に転がってきた。アイシマイクオはそれを拾って駆け出してき
た幼児に手渡してやった。幼児は無表情に彼を見つめ、なにも言わ
ずにベビーカーを引く母親の元に戻っていった。母親は「ほら、お
礼を言わなくちゃ駄目じゃない。ありがとうは?」と幼児に促す。
幼児は恥ずかしそうに全身をもじもじさせて母親の足元にすがりつ
きながら「ありがとー」と、呟くように言う。母親は、アイシマイ
クオに笑顔で頭をさげる。アイシマイクオは自分が本当に大きな着
ぐるみを着ているように思えてくる。至極安っぽいピンクのウサギ
の着ぐるみ。後ろには長いチャックがついている。口元は常に笑顔
で、赤く塗られた口内がわずかに覗いて見える。大きく描かれたプ
ラスチックの瞳の中には少女漫画さながらの無数の星が描かれてい
る。そして何よりも重要なことは、いつでも用が足せるように前に
もちょっとしたチェックが付いていることだろうと、アイシマイク
オは考える。アイシマイクオは、いつもやるようにこれで最後にし
ようと自身に刹那な誓いをたてる。公園から望む高架橋から制服を
きた少女が歩いて来るのが見える。アイシマイクオは、足早に高架
橋下の周囲から閉ざされた小さなデットスペースへと向かう。高架
橋から見下ろすことの出来る小さな緑色の舞台。脅迫的に、一瞬の
必死さと緊張を保ってアイシマイクオは大きなピンクのウサギとな
り、ある筈のない興奮した性器をおもむろに取り出して懸命に笑顔
で見知らぬ少女に手をふった。

push! blog ranking!!!
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by holly-short | 2007-03-01 11:25 | 「お題小説」

Holy night

 いかにも俗っぽいちゃちな電飾の数々、妖しい目をした女たちの赤い唇、燕尾服を着
た怪しい紳士の青緑色した皮膚、手持ち無沙汰に何かを求めてうろつく男ども、いかが
わしい通りを抜け、廃墟のような一角にその古びたテントは異様な様相でかろうじて形
を留め、空に向かって先端を突き立てていた。暗幕のように黒く薄汚く、何枚も継ぎ足
され、重ね合わされ、修繕され、まるで黒い大きな生物のように夜の闇にじっと身を
潜めている。閉ざされた入り口には小さな看板がぶら下げっている。そこには、赤い文
字で[freak show entrance]とだけ小さく書かれている。
 表には黒いシルクハットを被った小さな男、いわゆる小人が煙草をふかしている。小
人の動作は彼の意図とは別にコミカルに人々の好奇をくすぐる。こういう類の職業を生
業とするものの経験によって、彼はそのことについて頭だけではなく身体で理解してい
る。煙草をすっかり吸い終えると、ぶら下がる裸電球に光を灯し吸殻を道端に投げ捨て
た。小脇にかかえていた大きな杖を「よっこらしょっ」と宙に高く突き立てて、人通り
のある猥雑な繁華街へと独り行進しはじめた。小人は、子供服サイズの深紅のタキシー
ドに身を包み、大きく立派な口ひげを蓄え、胸を精一杯に張り出して得意顔で演説しは
じめる。その声はとても奇妙で、野太くテノール歌手のそれのように夜の街に集う人々
の意識に吸い込まれいった。
「世にも奇妙な生き物たち、一体これらはなんなのか?人間なのか?怪物なのか?はた
また天から舞い降りた妖精か?私の名前は小人のヤコブ。パロディファミリーの家長で
あり、わがフリーク小屋の案内人。一度見たら忘れられない愉快軽快パロディファミ
リーの茶番劇。ん?(手で顎を支えて考え込む素振り)茶番じゃなくて舞台劇、、、、
(ちらほらと目を留める人の間に小さな笑いが起こる)パロディファミリーの小さな世
界をごらんあれ!おや?そこに現れたるは怪物か?(大げさに驚いた表情、宙に向けて
指を指す)ご存知わがフリーク小屋のエレファントマンことミスタ〜ウィリアム。喋る
岩石、歩く石像。分厚い皮に覆われた野獣のごとき形相は、もちろん生身の本物だ。騙
されたと思ったら、彼にそっと触れてみな。甲羅のように堅い表皮、その下に血通う生
温かい生命力きちんと伝わってくる筈だ。さーさーおいでおいで。一度見ないと損する
よ。そして究極の出し物は、わがフリーク小屋きって至上最大の大目玉。(大きく目を
見開いて片手を目の上に添え、大きく左右を見回す)これは神の悪戯か?はたまた神の
芸術品か?ミアとメグの双子姉妹。双子といっても身体は1つ、青く輝く4つの瞳、2つ
の頭に1組の足、4つの乳房に1つの性器。1人で2人、2人で1人、何処へ行くにも
2人は一緒。切っても切れぬ二人の絆。お偉い学者さんたちも世界各国から集まるよ。
世にも不思議な双生児。目の前に繰り広げられる信じられない奇跡の数々。。さー見て
らっしゃい、寄ってらっしゃい、見なきゃ絶対後悔するよ。ここだけしか見ることの出
来ない不思議の数々、見てはいけない神の悪戯、スペクタクルフリークショーへようこ
そ。」
 背筋を伸ばし、杖を突き立て軽快に喋り続けるヤコブから数人の男たちがチケットを
買った。小人は面白可笑しく闊歩して好奇に胸を膨らませた赤ら顔のお客たちを怪し気
な黒いテントの中にうやうやしく案内した。テントの中は薄暗く中央にぼんやりと小さ
な舞台が浮かんで見える。赤いベルベットのカーテンが両脇からゴージャスに襞を作り
悠然とぶら下がっている。人々は好奇の青白い目でショーのはじまりに息を潜める。妖
し気なトランペットのリズムが舞台から漏れるように流れはじめる。

 深夜、みなが寝静まった頃にウィリアムは、ゆっくりと重たい身体を起こした。もう
とっくに歪みきってすえた匂いのするマットレスとマットレスの間に挟まれた小さな荷
物を震える手で取り出した。わずかな衣類と、もう握れない程に小さくまるまった黒い
チョーク、手にすっかり馴染んだ古い小刀、大きく口の広がったずた袋の中に僅かな私
物を詰め込んだ。通常の人間よりも1.5倍程大きくあらぬ方向に成長した頭部に大判の
マフラーをぐるぐると巻きつけてロシアの軍人が被るような防寒用の大きな帽子をすっ
ぽりと頭から被った。テントとテントの隙間から漏れる月明かりのたもと、所々変色し
折り目の破れた手紙を丁寧に広げてみる。そこにはウィリアムの母が10年程前に団長
に宛てた手紙、「お金を送るので息子ウィリアムのために使ってほしい。ウィリアムを
どうぞよろしく。」という内容の短い文章が添えられていた。封筒の裏には、マリーと
いう流れるようなサインとほんの小さくしたためられた住所が添えられていた。3年程
前に戦争がはじまり、莫大な費用のかかるサーカス団が解散となった際に小人のヤコブ
が団長のデスクの中から見付け、ウィリアムにこっそりと手渡してくれたものだ。以来
何度も何度も繰り返し繰り返しウィリアムは、その手紙をことある度に眺めて過ごし
た。もっとも中に入っていたお金はとっくの昔に団長の酒代に消えてしまったのだろ
う。しかし、それはウィリアムにとっては大きな問題ではなかった。3歳まで一緒に過
ごした母との思い出は遠い記憶の中で、うっすらとそれでも柔かく濃厚なイメージとし
てウィリアムの中で宿り続けていた。それは時としてウィリアムを励まし、ウィリアム
に希望を与えてくれた。ウィリアムにとって、この手紙はそれを唯一確認することが出
来る宝の地図のような存在だった。ウィリアムは3歳でサーカスに預けられた。以来
12年間、サーカスが閉鎖された後もこの薄暗い見世物小屋にて、他に類をみない怪物
として聴衆にさらされ過ごしてきた。ウィリアムはもちろん、学校にだって1度も行っ
たことがない。
 ウィリアムは、結合性双生児の双子の姉妹、ミアとメグの眠るベットに目を留めた。
2人は白い艶やかな頬をうっすらとピンク色に染めて連動する2つの心地よい寝息を奏
でてていた。何の問題もなく、すべての与えられるべく幸せをきちんと享受するかのよ
うに安らかに眠っている。ウィリアムがそっと傍を離れると小さな囁き声でミアがウィ
リアム呼びとめた。
「ウィリアム、どこに行くの?」
ウィリアムは僅かにマフラーの隙間から覗く2つの瞳で、ミアに微笑みかけた。ミアの
隣では、胴体部分で1つに融合した妹のメグが安らかに眠りつづけている。ミアは頭を
枕に沈めたまま2つの大きな瞳をウィリアムに向けた。
「どこにも行かないよ。」
ウィリアムは言って、大きな怪物のような手をメグの小さな頭に乗せた。メグは微笑
み、ウィリアムのどっしりとした大きな手を小さな両手で包み込みそっとやさしく口づ
けをした。
 ウィリアムは、小人のヤコブの元に行き彼をそっと揺すり起こした。ヤコブは可愛ら
しい子供用のベットにすっぽりと納まり、大きな鼾を悠然とかき、立派に生えた左右の
口鬚を寝息に合わせて大きく上下に動かしている。
「ヤコブ、ヤコブ、起きてくれ。もう僕は行くよ。」
ウィリアムは、ヤコブの耳許で囁き、小さくしかしがっちりとしたヤコブの肩を左右に
揺らした。ヤコブは眠気眼を小さな毛むくじゃらの男の手で、眠そうにこすりあげる。
「ん?」と言ってウィリアムを呆然と見上げる。
「もう時間か?本当に行くんだな?」
ヤコブは眠そうに、それでもしっかりとウィリアムを見つめて言った。
「うん、行くよ。後のことは頼んだよ。やっと自分の母親に会えるんだ。」
ウィリアムはそう言って、大きな頭をすこしもたげた。ヤコブは、小さな握り拳をウィ
リアムの怪物のようにでこぼこと盛り上がった手の平にグーでしっかりとパンチをし
た。
「まかせておけ、」と白い歯を光らせ、りっぱな口鬚を横に引っ張ってみせる。
「そうだ、これを持っていってくれ、」と言ってヤコブは上着の内ポケットの中から数
枚の高価な紙幣を取り出し、ウィリアムの胸に押しつけた。ウィリアムは、何度か断っ
たが、ヤコブは頑として譲らなかった。
「いいか。いつだって帰ってくればいいんだ。ここはお前の故郷なんだから。たとえ母
親と暮らすことが出来たとしても、うまく行かなかったらすぐに戻ってくればいいん
だ。みんなお前の家族なんだ。団長だって、嫌な奴だけど根はどうしようもないただの
ろくでなしのアル中だ。はじめは怒り狂うかもしれないが、すぐに忘れるさ。メグとミ
アだって、2人まとめてうまく寝かしつけられるのはお前だけだ。寝る前にお前のお話
が聞けなくなっちまうなんて、2人とも悲しむぞ。帰ってくる時は、その金で皆になに
かいいものでも買ってきてくれ、もうすぐ世間はクリスマスだ。」
ウィリアムは頷き、お金を受け取った。
 ウィリアムは古びたテントの隙間からこっそりと外へ飛び出した。外はちらちらと雪
が降っている。路は白く雪が積もり、足跡ひとつ見当たらなかった。ひっそりと廃墟に
溶けこむようにして暗闇に沈むテントをウィリアムは何度も振り返り、そのあいまいな
輪郭に目をこらした。ウィリアムは深々とマフラーに顔を埋め、帽子を深く被った。
たった一枚の母からの手紙をしっかりと握りしめ、外の世界へと無防備に飛び出して
いった。

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by holly-short | 2006-12-24 12:05 | 「お題小説」

「お題小説」         

※ 官能小説という訳ではありませぬが性的表現が含まれておりますので、不快に思われる方は無視してください

ヨーノ君、からたちみかん様、ひ様、網笠せい様、「お題」に参加の皆様、
上記気にならない方は、是非読んでくだされ!!

もう思ったことなんでも書いて!!自分でも何書いたんだか?よく解らん心境なので、、、。

2週間くらい、漠然と「キレイなオネエチャン」について考え続け、この20倍くらい書きまくった
のですが、、、、書けば書く程まるで全然まったくまとまらず、、、結局削って削って、これだけ
残りましたって感じに無理矢理まとめちゃいました!!って、まとまってないかもしれないが、、、
性的表現を露骨に出すのはどうか?とも思ったが、、、ワタシの中での「キレイなオネエチャン」
の第一印象は、すごく性的な感じだったので、あえて含めました。もう、本当に白旗をあげよう
う。あげたい。あげちゃう?ってな心境でしたが、、一応ずっと書くべく努力はしていたってこと
で、、、、ギリギリセーフ?でアップアップな心境でアップしまーす。
現在10月31日11時58分。

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「お題小説」
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by holly-short | 2006-10-31 23:57 | 「お題小説」

ネクター

 パパが病気で、もう長くないのよ。会いに行く?とママから言われて、私は少し戸惑った。私ひ
とりで、この世にたった一人のパパに最後のお別れをしに行くなんて、あまりにも感傷的過ぎ
る。ママは、私の父親のことをいつもパパと言う。離婚はしていないが、パパとは、もう10年以
上一緒に暮らしていない。夫婦って一体なんだろう、と思う。パパは、私が5歳くらいの時まで
一緒に暮らしていた。そして、ある日、家を出たきり、パパは帰って来なかった。私の記憶の中
で、パパとママは、理想的な夫婦だった。主にアルバムの中で。今思えば、それって、なんだ
か嘘っぽい。私は、とりあえず「ふーん。」と無表情に言ってみる。ママも、無表情に「じゃあ、ミ
カちゃん、これ」っと病院の名前と住所がメモされた紙を私に手渡した。

「で、本当に父親に会いに行くの?」
麗子は、半ば信じられないという表情を浮かべて私に問う。私たちは、私立高校のテニス部に
所属している。幼稚園から大学まで一貫教育のお嬢様学校に通っている。
「わかんない。でも、父親だし、一応」
私達は、白いテニス部のユニフォームに着替える。白いスコートに白いポロシャツ、真っ白いテ
ニスシューズに履き替える。
「10年間も会ってないんでしょ?そんな人、父親の資格なんて無いわ。」
麗子は、きっぱりと言う。
「そうよね。」
私はふむふむと頷き、唇を噛む。
「ねえ、ミカの日焼け止め貸して。うわーいいなあ。Diorだ。いい匂い。これって、ママの チョイ
ス?」
「そう」
「ずるいなあ、ミカは。あんな素敵なママがいて。その上、趣味が良くて、気前もいいなん
て。」
Diorの日焼け止めは、薄ら日焼けした私達の肌にスーと伸びて、すぐに馴染んだ。まるでなに
もつけてないかのように、しっとりとした感触だけを残して。
 ママは、自宅でお料理教室を主催している。器用でセンスがよく、美人だ。最近では、料理
の本も出版し、雑誌やテレビなどでも活躍している。今、流行りのライフスタイル提案型のカリ
スマ主婦として、もてはやされている。パパの不在は、仕事上の都合による単身赴任というこ
とで、周囲の関心を丸くおさめている。ママは、やり手で、いいものを熟知している。品質への
こだわり、その為ならお金も時間も惜しまない。

 パパとの記憶は、断片的なものだ。背が高く、がっしりとして、手が、とても温かく、大きかっ
た。よく喋り、よく笑った。とても陽気で、男らしく、笑顔がかわいい。女たらしで、きっと、よそ
の女に恋をして、私とママを捨てたのだ。アルバムの中で、パパは、若く、とてもハンサムだと
いうことを認めざる負えない。そして、たぶん、きっと、考え無しだったに違いない。幼い頃の
私は、とても深くパパを愛していた。今となっては、その存在すら、よく解らない。パパが亡く
なったら、私はどれくらい深く悲しむべきなのかすら。
 幼い私は、パパとママと寄り添うように歩いている。とっても寒くて、私はパパに肩車されてい
る。パパの首筋はとても温かくて、甘い匂いがする。当時、専業主婦だったママは、きっと、家
事を完璧にこなしていた。ママの描く幸せな家庭像を実現する為に。「せっかく外出したのだ
から、ケーキでも買って帰りましょう。」と言って、ママがデパートに行こうとすると、パパは、「ケ
ーキなら、そこの不二家のケーキでいいだろう?」と言う。「駄目よ。ミカちゃんは、アンリシャル
パンティエのケーキが好きなのよね。」とママは私の顔を覗く。「うん、アンリのケーキ。」と私
は、はしゃぐ。厳選された素材で、丁寧に作られた宝石のように美しいケーキが、整然とショー
ケースに並んでいる。通常の二分の一くらいの大きさでも、価格は二倍以上だ。ママと私は
ショーケースの中から、慣れた様子でケーキを選ぶ。「俺は、いらないぞ。そんな高いケーキ
は、」と店員に聞こえるような大きな声でパパは、言う。平然と、何食わぬ様子で。ママは顔を
しかめる。「なんで、そんな大きな声で、そんなことを言ったりするの?たかがケーキじゃない。
もう、いいわ。ミカちゃん、ケーキは辞めましょう。」私は、泣く。幼い私には、ケーキが買えない
ことが悲しいのか、パパとママの些細な喧嘩が悲しいのか、よく解かっていない。
 「ママはね、ミカちゃんに本物の解かる女性になってほしいのよ。」
ママは、私をとても厳しく、とても贅沢に育てた。そして、それは、たぶんパパにとって、とても
馬鹿らしいことだった。私が幼稚園に行く時も、二人の意見は対立した。
「普通の幼稚園に行かせればいいだろ。なんで、私立のしかも女しかいないような幼稚園に
行かせる必要があるんだよ。」
「だって、長野さんちのお子さんだって、お友達の絵美ちゃんだって、皆そこの幼稚園に通って
いるのよ。集まる子供もそれなりの家の子供たちだし、教育の質もとてもいいって、」
「他の奴がどこにいこうと関係ないだろ。世の中には、いろんな人間がいるんだよ。男も、下品
な奴も。そういう中で揉まれて育ってこそ、勉強になるし、強くなるってもんだ。そんな偏った、
気取った幼稚園にわざわざ高い金を払って行かせる必要ないだろ?」
「駄目よ。もう決めたの。ミカだって、とっても気に入ったみたいだし。入学金だって、払ってき
ちゃったもの。」
「そう、じゃあ好きにすれば、」
パパとママのお金に対する価値観は、いつもずれてて、折り合いが悪かった。きっと、育ちが違
うからだ。ママは資産家の一人娘で、超のつくお嬢様だった。私とママの住む芦屋の家も、マ
マの実家の持ち家だ。いずれ、おまえのものになるのだからと、ママは料理教室をこの家では
じめた。パパが、もう帰って来ないということを悟ると、ママは私を連れて、この家に越した。勿
論、ふたりの結婚に、ママの両親は大反対した。パパは、運送会社の従業員で、自分の娘に
は見合わないと思ったからだ。しかし、二人は結婚した。ママの両親の許可を得ないまま。マ
マはパパのことを深く愛していた。多分、パパも。結婚式は、挙げず、小さな教会で、二人だ
けの簡単な誓い事をして、パパはママのために指輪を一つ買った。シンプルな何の装飾もな
い指輪。その時、ママのお腹の中には、私がいた。

 私は、パパに連れられて、出かけるのが大好きだった。パパはいつも腰の曲がったお婆さん
が細々と営む駄菓子屋に私を連れていってくれた。埃っぽい店内は、薄暗く、こまごまとした駄
菓子や玩具が所狭しと並べられていた。私とパパは、駄菓子を選んで、保冷庫でキンキンに
冷えた不二家ネクターを買う。それらは、けしてママには買ってもらえない安価な毒々しいもの
ばかりだ。
「おまえは、その桃のジュースが本当に好きだなあ。」
パパは笑って、ネクターを飲む私を抱きかかえ、車にもどった。パパと私は、ママに内緒でよく
競馬場に出かけた。パパは競馬が好きで、いつも僅かなお金を賭けて、大抵は負けてばかり
いた。パパは競馬のことを「罪のない遊び」と言っていた。ママにとっては、理解不能の、最も
無駄なお金の使い道に過ぎず、幼い娘をギャンブルに連れ出すなんて、もっての他と、彼女
は、言うだろう。私は、馬を見るのが大好きだった。レースに熱中して一喜一憂するパパを眺
めるのも。そんなパパにくっついて大好きなお菓子を食べるのも。その日、私はパパとはぐ
れ、迷子になった。私は雑踏の中で、あまりにも無力で、押し潰されてしまいそうだった。私は、
懸命にパパを探した。パパの背中を、パパの面影を。でも、パパは、何処にもいなかった。私
は、人の歩く方向を、又は、それに逆らい、掻きわけて、パパを探した。「パパ」と何度も叫んで
みる。場内アナウンスと歓声に揉み消され、私はただ口をパクパク動かすだけだ。今にも泣き
出しそうだった。競馬場の人が迷子になっている私を保護してくれてた。名前を聞かれ、パパ
と一緒に来ていることを伝えた。その人は、競馬場内にある従業員の控え室に私を招き入
れ、「アナウンスを入れるから、ちょっと待っていて」と、出ていってしまう。私は、一人パイプ椅
子に座り、「パパ」と声に出して言ってみる。
 構内アナウンスを聞いて、パパは、焦るように、私を迎えにやって来た。それでも私を確認す
ると、「ごめん、ごめん、」と、苦笑いした。私は、パパに抱きつき、パパは私を強く抱きしめ
た。「ごめんよ、そんなに泣いちゃ駄目だ」と、私の涙を大きな手で拭う。私はパパの温かい胸
に顔を埋める。タバコと、太陽の入り混じったような甘い匂い。
目覚めると、私は、競馬場の職員と、二人の警察官に取り囲まれていた。
「パパ」
と私は、もう一度声に出して言ってみる。
「もうすぐ、お母さんが来るからね。君は、一人でここに来たんだよ。こういう所へは、一人で来
ちゃ駄目だ。もう、6歳なんだから解かるよね。お母さんも、とても心配しているよ。」
警察官のひとりは、とても優しく私に、言う。
「いっぱい泣いて喉が渇いただろう?なにか買ってくるけど、何が飲みたい?」
「ネクター」と私は言う。

 放課後のテニスコートで、私たちは懸命にボールを追いかけた。自分で言うのもなんだけど、
私は運動神経がとても良い。「きっと、パパ譲りね」とママは、言う。「パパはすごく運動神経よ
かったもの。頭は悪かったけど」と言って、笑う。
「ミカ、飲み物買いに行こう。」
麗子は、自販機の方を指差す。私たちは息を切らして、体育館の裏にある自販機で飲み物を
買う。「不二家ネクターなんて、懐かしい感じ、まだあるんだ。」と麗子は私の買ったネクターを
見つめる。
「私、子供の頃、ネクターがすごく好きだった気がする。」
昔、ネクターの缶は、もっと硬くて、口をつけると微かに鉄のような味がした。そして、その後
に、冷たく甘い液体が口一杯に広がるのだ。



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by holly-short | 2006-08-18 23:34 | 「お題小説」