<   2006年 08月 ( 10 )   > この月の画像一覧

上質な遺伝子 24

金ちゃんは、あまり外へも出歩かなくなった。食欲もなく、餌を食べ
ても、すぐに吐き出してしまった。心配して、獣医に連れていくものの、
特に目立った問題はないと言う。栄養失調気味とのことで、栄養剤を
数回打ってもらった。ある日、金ちゃんは久しぶりに外出したきり2日
間帰って来なかった。私たちは、心配したが周囲を探す以外には、
なす術がなかった。ルイみたいに、いなくなってしまったのでは?
と不安になった。しかし、3日目の朝、金ちゃんはふらりと帰ってきた。
正確には、朝起きたら金ちゃんがいたのだ。水をあげると、驚くぐら
い沢山の水を飲んだ。ゴクゴクゴクと今まで聞いたことのないような
音をたてて、水は金ちゃんの体内に面白いように吸い込まれていった。
それから、金ちゃんは少しずつ元気を取り戻した。夜は、大抵私の
部屋で私にくっついて眠った。ルイがいなくなって、金ちゃんは少し
人間らしくなったような気がした。心なしか。たまに窓の外をぼんやり
と、いつまでも眺めていること以外は、以前と変わず、身体も少しずつ
元の大きさを取戻していった。私が結婚して、実家からいなくなって
も金ちゃんは、変わらず元気なままだった。そして、ある日、金ちゃんは
近所の駐車場で8年間の命を閉じた。死因は、よく解からなかった。
金ちゃんは駐車場で、硬く伸びていたのだそうだ。私は、金ちゃんの
亡骸を見ていないので、今でも金ちゃんが生きているような気がして
ならない。
 夢の中で、私は母と父と弟と一緒にリビングで、それぞれ好きなこと
をして過ごしている。皮のソファーの背もたれに沈むようにして金ちゃん
が佇んでいる。エメラルドグリーンの目は、窓の外をぼんやりと眺めて
いる。そして、金ちゃんは、突如鳴きはじめる。まるで、なにかに憑かれ
たように。尋常じゃない様子で、窓を開けるようにと、私たちを促す。
私は、いつもみたいに窓を開けてやる。窓を開けると、ルイが昔みたい
に勢いよく入ってきた。他の仲間を引き連れて、金ちゃんを迎えにきた
のだ。他の仲間は、4,5匹くらいいてトラ柄だったり、三毛だったり、まる
で野良猫の寄せ集めのような集団だ。ルイは、とてもたくましく以前に
比べて随分大きく見えた。金ちゃんは、まるで当たり前のようにルイを
見つめていた。そして、ルイに連れられて金ちゃんは何処かに行ってし
まう。身体1つで。そして、きっとふたりとも、もう二度と帰ってこないのだ
と、夢の中で私は確信している。とても穏やかな喪失感と共に。私は
目覚める。私が目覚めると、夫も目を開けた。
「ねえ、金ちゃんの夢を見たのよ。」
夫は、眠そうにぼんやりと私を見つめる。
「私は実家にいて、まだ金ちゃんが生きているの。そしたら、ルイが金
ちゃんを迎えに来るのよ。変な猫仲間をいっぱい引き連れて。金ちゃん
を、連れて行ってしまうの。でもね、全然寂しくないの。金ちゃんは、
ルイをずっと待ちつづけていたから、とっても幸せそうだった。懐かし
かったな。」
「ふーん」
夫は、寝ぼけたように言い、そのうちまた次の眠りへとさらわれていく。
私は、懐かしく、幸せな気持ちで満たされ、再び目を閉じる。夢で得た
感触を消すまいと、再び眠りにつく。

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by holly-short | 2006-08-31 21:52 | 上質な遺伝子

上質な遺伝子 23

 夢。
 夢の中で、懐かしい人が普通に隣にいる情景。それは、私にとって夢
の中では、現実そのものだ。懐かしい人と言っても、それは雄猫で、
名前を金ちゃんという。上から墨をかぶったみたいに真っ黒で、そこに
は2つのエメラルドグリーンの目が美しく輝いていた。長い尻尾は、途中
で3時の方向に折れ曲がっている。紛れも無い雑種で、金ちゃんは、ルイ
という兄弟と共に、生後すぐに我家にやってきた。2匹まとめて弟が近所
の公園から拾って来たのだ。母に何度も返してくるようにと説得されたが、
弟は断固としてそれを拒否した。最後には泣いて、駄々をこね、2匹は
渋々我家へ迎えられたのだ。弟はグレーの模様の入った子猫に、高貴
な感じがするからと言って、ルイと名付けた。もっともアメリカンショート
ヘアーを思わせるシルバーグレーの繊細な毛並は、成長するにつれて
平凡な薄茶色へと変化した。黒い方の子猫は、お姉ちゃんの猫だから、
お姉ちゃんが名前をつけるといいよ、と弟は言った。私は、周囲の反対を
他所に彼に金丸という名前をつけた。しかし、私も含めて誰も彼のことを
金丸とは呼ばず、金ちゃんと呼んだ。ふたりは、とっても猫らしい猫だった。
猫なのだから、当たり前なのだが、今まで我家で飼った数匹の猫に比べ
ると、事実抜群に猫らしい猫だったのだ。きっと、2匹で飼っていたから
だ。それ以前の猫は、みな単独で我家に連れて来られ、自分のことを
半ば人間だと思っていたように思う。その後、再び弟の策略によって、
子犬を飼うことになるのだが、子犬は2匹の猫に常に囲まれて育った
ためか、自分を猫だと思い込んでいた。猫だと思い、高い所から思い
きり飛び降りたりするものだから、失敗してよく顔を強打した。そして、
すぐに足が悪くなった。犬の餌よりも、味の濃い猫の餌を食べたがっ
た。育ちや教育というものは、とても大きくそのものの本質に反映する
ものなのかもしれない。
 金ちゃんとルイは、いつも一緒だった。ちょっと離れていても、どこか
ふたりは繋がっていて、すぐに一緒になるのだ。餌を食べるのも、
昼寝をするのも、外出するのも、深夜突如として始まる猫の集会に
参加するのも。去勢手術だって、ふたり並んで一緒にうけたのだ。
正確にはうけさせられたと言った方が正しく、悲しいかな、ふたりは
揃って雄という性を捨てなければならなかった。放し飼いだったので、
ふたりは、リビングの小さな窓から出たり入ったりする。よく動き、よく
遊び、よく寝て、よく食べた。スレンダーで筋肉質な身体は、毛並み
が良く、いつも互いを舐め合っていた。ふたりはとても美しい猫だった。
ふたりが我家に来て、5年後のある日、ルイがいなくなった。その日、
家を出たきり、ルイは忽然と消えてしまった。1日や2日、帰って来ない
ことは、今までもよくあったのだが、ルイは一週間しても一ヶ月しても
帰って来なかった。ポスターを貼っても、なんの効果もなかった。
その後、ルイの消息は不明だ。金ちゃんは、それから半年間で半分に
痩せてしまった。身体が小さくなり、目ばかりが目立つようになった。
エメラルドグリーンの目は寂しそうに窓の外ばかりを見つめていた。

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by holly-short | 2006-08-30 23:34 | 上質な遺伝子

上質な遺伝子 22

 その日も、旅行会社は、朝から混雑していた。いつもみたいに、
大きな山を何回か乗り越えて、夕方を過ぎた頃には、客が捌けた。
お昼休みがとれていない社員の2人は、遅いランチを食べに食堂
へと出かけた。若い男女が店の片隅に備え付けられた小さなテーブル
で、ハワイ挙式のパンフレットを眺めている。2人とも、とても若くて、
とても幸せそうに見える。私は、山積みにされたファイルの確認作業
と発券作業を黙々とこなし、その合間合間にポツリポツリとやってくる、
お客に対応した。
「こんばんは、」という男性の声に、私は反射的に「いらっしゃいませ」と、
体勢を立て直す。見上げると、そこには恋人がいた。私は無表情に、
小さく、再び「いらっしゃいませ」と言ってみる。感情のない平坦な声で。
そして、深刻な、にらみつけるような、困ったような、呆れたような表情
で彼を見つめる。彼は、にっこりと笑って、なんでもないようにカウンター
の席に悠然と腰をおろした。
「なにしに来たの?」
私は、ささやくような小さな声で言う。眉間に深い皺を寄せながら。
「なにって、旅行の予約をしに来たんだよ。」
「予約?」
「そう。だって、ここは、旅行代理店だろ。旅行に行きたいんだ。」
私は、呆れたように首をかしげる。怪訝な表情で。
「で、どこまで行かれたいんですか?」
「それは、まだ決めてない。」
「でも、それでは、予約は取れません。どこに行かれたいのかも、
決まっていない状態では」
私は、意地悪く言う。つっけんどんに。
「それを一緒に考えてくれるのが、君の仕事だろ」
まるでお客様然とした太々しい態度で彼は、言う。
「そうです。おっしゃる通りです。申し訳ありませんでした。では、お日取
りは?」
「それも、まだ決めてないんだ。」
私は、再び呆れたような視線を彼に返し、返す言葉もなく、彼を見つ
めた。
「でも、近場の温泉に行きたいと思っているんだ。静かで、お湯が
ちゃんとあって、そんな高級な所じゃなくていいんだけど、こじんまり
した民宿みたいな温泉旅館なんて、どうだろう?」
「どうだろう?って、とっても良いと思いますよ。この近くには車で行か
れる手軽な温泉地が沢山あります。お値段はピンキリですけど、とり
あえず、パンフレットを持ってきますね。」
私は、温泉コーナーに並べられたパンフレットを片っ端から取り出し、
勢いよく彼の目の前に置いた。彼は、何喰わぬ顔で、それらを目の前
に並べはじめる。
「で、おすすめは?」
「おすすめ?って言われたって、私だって、全然、まったく、どこにも
行ったことないもの。そんなの知るわけないじゃない。」
私は、小声で言う。
「いつも、そんな風に、お客さまに対応しているのか?ひどい従業員だ。
ひど過ぎる。」
彼は信じられないという風に首を横に振り、いたずらっぽく笑った。
そして、いつもみたいなリラックスした調子で、ふーん、と言いながら
適当にパラパラとパンフレットをめくる。
「どこかに、一緒に行こう。」
恋人は、顔をあげずにつぶやくよう言った。

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by holly-short | 2006-08-29 22:28 | 上質な遺伝子

上質な遺伝子 21

 私は、お客の話を聞き、お客が望むような旅行プランを提案する。
車で行くのか?電車で行くのか?電車であれば、グリーン席か?
禁煙席か?喫煙か?宿泊先は?旅館を希望しているか?ホテル
でいいのか?部屋は?和室か?洋室か?はたまた和洋室か?ベッドは、
ツインか?ダブルか?海外旅行であれば、ツアー?かフリー?か、添乗
員は必要か?希望の渡航先は?希望の旅行パックは?部屋は海が見え
るほうがいいのか?ホテルの朝食は必要か?トランジットに問題はない
か?オプショナルツアーは?予算は?などなど膨大な質問をする。
お客様は、膨大な選択枠の中から、それぞれを選ぶ。
もちろん、それと同時に多くの質問も投げかけてくる。露天風呂はある
のか?温泉は源泉か?家族風呂は?部屋食可能か?別途注文は?
メニューは?カラオケはあるのか?サウナは?プールは?ホテルの近く
のお勧めのレストランは?現地の天候は?治安状況は?はたまた、
チップはいくらくらい払う必要があるのか?まで、様々な、お客様の
疑問をひとつひとつ解決し、ご納得していただいた上で、すべての
旅行が組まれていく。いつでも。大まかには。
 私たちは次々に現れ、時には長い列を作るお客、ひとりひとりの要望
に耳を傾け、疑問に答え、質問をし、プランを練る。予約状況を調べ、
予約を入れ、確認し、料金を計算して、請求する。そんな作業を、
何度も何度も繰り返す。まるで山積みにされた荷物をそれぞれの場所
に、それぞれの指定された方法で、ひとつひとつ運ぶみたいに。現実的
には、待ちくたびれたお客様が怒り出したり、旅行プランを書き込む
カルテが紛失したり、お渡ししたクーポンに大きな誤りがあったりして、
作業は、すぐに滞ってしまう。それでも、私たちは、滞ったラインを建て
直し、あらゆる可能性を探り出し、作業を進めなければならない。是が
非でも。それが仕事だから。山積みとなった仕事をスピーディーに、
正確に処理しなくてはいけない時、私は、頭の中で映画「未来世紀ブラジル」
ザビア・クガートの「ブラジル」を唱える。まるで、なにかのおまじないの
ように。そして、私は、ある情報省に務める記録係だと思ってみる。
次から次へと放り込まれる指令を、決められたルーティンに沿って、次々と
処理していく。それが私の役割だ。完璧に情報管理された組織の中で、
私は、大きな流れの中のほんの一部に過ぎない。私の元に、書類がくる。
私は、瞬時に的確な判断をして、判断というより、むしろ認識と言った方が
正しく、そして、的確に処理していく。「ブラジル」の能天気で緩やかな
リズムに合わせて。私はまるで機械の一部にでもなったかのような気持ちに
なってみる。そして、それは、そんなに悪くない気分だ。

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by holly-short | 2006-08-25 23:25 | 上質な遺伝子

ペレルマン氏フィールズ賞受賞???しかし辞退。

ペレルマンさんどうして???  


 研究者にとって、最大の喜びであり、目的といったら、自分の生活の大半を注いだ、研究テーマに対して回答が得られた時だろう。もちろん。だって、その為に某大なる時間を費やし、某大なる知識を身につけ、時として某大なるお金を消費しつつ、日々頭を悩ませている訳だから、、、。

 今まで誰も見つけることの出来なかった真実を発見するのって並大抵じゃない。たとえば、20世紀最大の難問「フェルマーの最終定理」を巡るストーリーも壮絶を極める。17世紀に打ち立てられた難問を前に、多くの数学者たちが挫折し、絶望し、苦渋を強いられた。苦難の末に画期的な予想を打ち立てた日本人数学者は自殺、その予想の先取権をめぐる陰謀と裏切り、などなど、数多くの優れた数学者たちを残酷にも、はねのけてきた。1994年に8年以上もの歳月をかけ、この難問を解決したアンドリュー・ワイルズは、7年間に渡り、友人、家族との交わりを一切断ち、独房のごとく屋根裏部屋にひとり閉じ籠り、ひたすら7年間この問題を考え続けた。そして、ある日、ついに答えを獲得する。と、思いきや、自分の証明に穴があることを自ら発見し、再び一年間、屋根裏部屋に引き籠るものの、その穴はふさがらず、いよいよ彼は、証明を諦めることを決意する。そして、なぜ自分は失敗したのか?8年間の研究を振り返りつつ、研究で散らばった書類を片付け始めた1994年のある朝、彼の頭に真の回答がポッカリと浮かんだのだ。まるで、晴天の霹靂のごとく。

 それこそ学術研究の世界では、間違っていた!ってことを発見することだって立派な発見なのだ。沢山の某大な数えきれないくらいのミステイクの積み重ねの上に、たった一つキラリと光る真実がある。そんな世界だ。そして、それは、鳥取砂丘で、一粒の砂粒を見つけるくらい、、、、、太陽系の中で地球以外の生態系を持つ惑星を探し出すくらいに難しいことなのだ。それは、そんな惑星など、存在しないかもしれないという、危険性も、常に隣り合わせだ。

 さて、本題のベレルマン氏、ロシア人数学者の解いたとされる、「ポアンカレ予想」は、「21世紀を象徴する難問7題」のうちの1つとされ、100万ドル(1億1千万)の高額賞金がかけられている。ちなみに、7題のうち、解いたと認定されたものはまだなく、ベレルマン氏の証明に至っても、2002年ごろ何故か学術紙ではなく、インターネット上???で発表されてから、今だ約4年間、検証段階にあるのだ。しかし、彼の証明に関しては、多くの数学者が正しいと考えていて、致命的な誤りは今だ指摘されていない。ようするに、難し過ぎて、正しいかどうかすらもよく解らない状況なのだ。もちろん、本当に証明可能な、解のある問題であるのか?すらも、、、、、、。なにせ、20世紀最大の難題「フェルマーの最終定理」よりも難しいと言われている。さすが!21世紀を代表する難題なのである。

b0090823_0253419.jpg  して、「ポアンカレ予想」を解いたとされるベレルマン氏、100万ドルの高額賞金(今だ検証中)には、まるで無関心というからオドロキ桃の木だ。それだけでなく、昇進や米国で活躍するチャンスを辞退し、欧州の若手数学者に与えられる賞も拒否。何よりも、周囲を驚かせたのは、今月、4年に一度、受賞者が1人選ばれる、数学者にとって最高の栄誉とされるフィールズ賞をも、拒否したということなのである。フィールズ賞と言えば、ノーベル賞よりも取得するのが難しいと言われる程に、権威ある賞で、基礎数学界きっての、最大級の栄誉なのである。ペレルマン氏によると、「自分の証明正しければ賞不要」とコメント。電話で拒否の返事を聞かされた国際数学連合の会長は、自らベレルマン氏の住むロシア、サンクトペテルブルグを訪れ、2日間賞を受けるべく説得を続けたが気持ちは変わらなかったのだそうだ。しかも、彼いわく、「(受賞式が開かれる)マドリッドに行く費用もない」と言う。そーいう問題じゃないだろ?と耳を疑いたくなる発言を連発。しかし、実際、彼は、昨年12月に数学研究所を辞めた後は、研究の世界からもこつ然と姿を消し、他の研究者との連絡も断っているのだそうだ。辞めた理由は、現在の数学界や、有名になって注目されるのに嫌気がさしたから、だそう。メディアの取材も拒み、人前にも殆ど姿を見せず、その孤高と変わり者ぶりで、かえって注目を集めた程だ。

 ペレルマン氏は、現在無職で、サンクトペテルブルグの郊外で母親とひっそりと生活しているらしい。わずかな貯金と、元数学教師の母親の年金だけが生活の糧とのこと。怪僧ラスプーチンを思わせる髭もじゃの顔、趣味はキノコ探しを兼ねた森の散歩。

 偉大な数学者がロシアの森でキノコ狩りなんて、なんてロマンティックなんだろう。私的には、お母さんの為にも賞金の一部くらいは、もらってもらいたい。で、別荘として、森の中の古いシャトーかなんかを買って、バイオリンを弾いたり(天童と言われていた幼少時代から、音楽の才能にも恵まれていたそうです)キノコ狩りをしたり、時として数学の世界に思いを巡らせながら、余生を過ごすなんてどうだろうか?と、言っても彼は現在まだ、40歳なのだけど、、、、

Mmm、、、、なんてーことは、ペレルマン氏に限って、一切頭になにのだろうな。
 
 最後に、ペレルマン氏が「ポアンカレ予想」の答えが見えた時に、周囲に漏らした言葉、、、、、、

 「魔法使いが消えてしまった、もう数学は続けられない。」

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朝日新聞 「ポアンカレ予想」解決の?ロシア数学者、雲隠れ !
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by holly-short | 2006-08-23 00:13 | diary

ネクター

 パパが病気で、もう長くないのよ。会いに行く?とママから言われて、私は少し戸惑った。私ひ
とりで、この世にたった一人のパパに最後のお別れをしに行くなんて、あまりにも感傷的過ぎ
る。ママは、私の父親のことをいつもパパと言う。離婚はしていないが、パパとは、もう10年以
上一緒に暮らしていない。夫婦って一体なんだろう、と思う。パパは、私が5歳くらいの時まで
一緒に暮らしていた。そして、ある日、家を出たきり、パパは帰って来なかった。私の記憶の中
で、パパとママは、理想的な夫婦だった。主にアルバムの中で。今思えば、それって、なんだ
か嘘っぽい。私は、とりあえず「ふーん。」と無表情に言ってみる。ママも、無表情に「じゃあ、ミ
カちゃん、これ」っと病院の名前と住所がメモされた紙を私に手渡した。

「で、本当に父親に会いに行くの?」
麗子は、半ば信じられないという表情を浮かべて私に問う。私たちは、私立高校のテニス部に
所属している。幼稚園から大学まで一貫教育のお嬢様学校に通っている。
「わかんない。でも、父親だし、一応」
私達は、白いテニス部のユニフォームに着替える。白いスコートに白いポロシャツ、真っ白いテ
ニスシューズに履き替える。
「10年間も会ってないんでしょ?そんな人、父親の資格なんて無いわ。」
麗子は、きっぱりと言う。
「そうよね。」
私はふむふむと頷き、唇を噛む。
「ねえ、ミカの日焼け止め貸して。うわーいいなあ。Diorだ。いい匂い。これって、ママの チョイ
ス?」
「そう」
「ずるいなあ、ミカは。あんな素敵なママがいて。その上、趣味が良くて、気前もいいなん
て。」
Diorの日焼け止めは、薄ら日焼けした私達の肌にスーと伸びて、すぐに馴染んだ。まるでなに
もつけてないかのように、しっとりとした感触だけを残して。
 ママは、自宅でお料理教室を主催している。器用でセンスがよく、美人だ。最近では、料理
の本も出版し、雑誌やテレビなどでも活躍している。今、流行りのライフスタイル提案型のカリ
スマ主婦として、もてはやされている。パパの不在は、仕事上の都合による単身赴任というこ
とで、周囲の関心を丸くおさめている。ママは、やり手で、いいものを熟知している。品質への
こだわり、その為ならお金も時間も惜しまない。

 パパとの記憶は、断片的なものだ。背が高く、がっしりとして、手が、とても温かく、大きかっ
た。よく喋り、よく笑った。とても陽気で、男らしく、笑顔がかわいい。女たらしで、きっと、よそ
の女に恋をして、私とママを捨てたのだ。アルバムの中で、パパは、若く、とてもハンサムだと
いうことを認めざる負えない。そして、たぶん、きっと、考え無しだったに違いない。幼い頃の
私は、とても深くパパを愛していた。今となっては、その存在すら、よく解らない。パパが亡く
なったら、私はどれくらい深く悲しむべきなのかすら。
 幼い私は、パパとママと寄り添うように歩いている。とっても寒くて、私はパパに肩車されてい
る。パパの首筋はとても温かくて、甘い匂いがする。当時、専業主婦だったママは、きっと、家
事を完璧にこなしていた。ママの描く幸せな家庭像を実現する為に。「せっかく外出したのだ
から、ケーキでも買って帰りましょう。」と言って、ママがデパートに行こうとすると、パパは、「ケ
ーキなら、そこの不二家のケーキでいいだろう?」と言う。「駄目よ。ミカちゃんは、アンリシャル
パンティエのケーキが好きなのよね。」とママは私の顔を覗く。「うん、アンリのケーキ。」と私
は、はしゃぐ。厳選された素材で、丁寧に作られた宝石のように美しいケーキが、整然とショー
ケースに並んでいる。通常の二分の一くらいの大きさでも、価格は二倍以上だ。ママと私は
ショーケースの中から、慣れた様子でケーキを選ぶ。「俺は、いらないぞ。そんな高いケーキ
は、」と店員に聞こえるような大きな声でパパは、言う。平然と、何食わぬ様子で。ママは顔を
しかめる。「なんで、そんな大きな声で、そんなことを言ったりするの?たかがケーキじゃない。
もう、いいわ。ミカちゃん、ケーキは辞めましょう。」私は、泣く。幼い私には、ケーキが買えない
ことが悲しいのか、パパとママの些細な喧嘩が悲しいのか、よく解かっていない。
 「ママはね、ミカちゃんに本物の解かる女性になってほしいのよ。」
ママは、私をとても厳しく、とても贅沢に育てた。そして、それは、たぶんパパにとって、とても
馬鹿らしいことだった。私が幼稚園に行く時も、二人の意見は対立した。
「普通の幼稚園に行かせればいいだろ。なんで、私立のしかも女しかいないような幼稚園に
行かせる必要があるんだよ。」
「だって、長野さんちのお子さんだって、お友達の絵美ちゃんだって、皆そこの幼稚園に通って
いるのよ。集まる子供もそれなりの家の子供たちだし、教育の質もとてもいいって、」
「他の奴がどこにいこうと関係ないだろ。世の中には、いろんな人間がいるんだよ。男も、下品
な奴も。そういう中で揉まれて育ってこそ、勉強になるし、強くなるってもんだ。そんな偏った、
気取った幼稚園にわざわざ高い金を払って行かせる必要ないだろ?」
「駄目よ。もう決めたの。ミカだって、とっても気に入ったみたいだし。入学金だって、払ってき
ちゃったもの。」
「そう、じゃあ好きにすれば、」
パパとママのお金に対する価値観は、いつもずれてて、折り合いが悪かった。きっと、育ちが違
うからだ。ママは資産家の一人娘で、超のつくお嬢様だった。私とママの住む芦屋の家も、マ
マの実家の持ち家だ。いずれ、おまえのものになるのだからと、ママは料理教室をこの家では
じめた。パパが、もう帰って来ないということを悟ると、ママは私を連れて、この家に越した。勿
論、ふたりの結婚に、ママの両親は大反対した。パパは、運送会社の従業員で、自分の娘に
は見合わないと思ったからだ。しかし、二人は結婚した。ママの両親の許可を得ないまま。マ
マはパパのことを深く愛していた。多分、パパも。結婚式は、挙げず、小さな教会で、二人だ
けの簡単な誓い事をして、パパはママのために指輪を一つ買った。シンプルな何の装飾もな
い指輪。その時、ママのお腹の中には、私がいた。

 私は、パパに連れられて、出かけるのが大好きだった。パパはいつも腰の曲がったお婆さん
が細々と営む駄菓子屋に私を連れていってくれた。埃っぽい店内は、薄暗く、こまごまとした駄
菓子や玩具が所狭しと並べられていた。私とパパは、駄菓子を選んで、保冷庫でキンキンに
冷えた不二家ネクターを買う。それらは、けしてママには買ってもらえない安価な毒々しいもの
ばかりだ。
「おまえは、その桃のジュースが本当に好きだなあ。」
パパは笑って、ネクターを飲む私を抱きかかえ、車にもどった。パパと私は、ママに内緒でよく
競馬場に出かけた。パパは競馬が好きで、いつも僅かなお金を賭けて、大抵は負けてばかり
いた。パパは競馬のことを「罪のない遊び」と言っていた。ママにとっては、理解不能の、最も
無駄なお金の使い道に過ぎず、幼い娘をギャンブルに連れ出すなんて、もっての他と、彼女
は、言うだろう。私は、馬を見るのが大好きだった。レースに熱中して一喜一憂するパパを眺
めるのも。そんなパパにくっついて大好きなお菓子を食べるのも。その日、私はパパとはぐ
れ、迷子になった。私は雑踏の中で、あまりにも無力で、押し潰されてしまいそうだった。私は、
懸命にパパを探した。パパの背中を、パパの面影を。でも、パパは、何処にもいなかった。私
は、人の歩く方向を、又は、それに逆らい、掻きわけて、パパを探した。「パパ」と何度も叫んで
みる。場内アナウンスと歓声に揉み消され、私はただ口をパクパク動かすだけだ。今にも泣き
出しそうだった。競馬場の人が迷子になっている私を保護してくれてた。名前を聞かれ、パパ
と一緒に来ていることを伝えた。その人は、競馬場内にある従業員の控え室に私を招き入
れ、「アナウンスを入れるから、ちょっと待っていて」と、出ていってしまう。私は、一人パイプ椅
子に座り、「パパ」と声に出して言ってみる。
 構内アナウンスを聞いて、パパは、焦るように、私を迎えにやって来た。それでも私を確認す
ると、「ごめん、ごめん、」と、苦笑いした。私は、パパに抱きつき、パパは私を強く抱きしめ
た。「ごめんよ、そんなに泣いちゃ駄目だ」と、私の涙を大きな手で拭う。私はパパの温かい胸
に顔を埋める。タバコと、太陽の入り混じったような甘い匂い。
目覚めると、私は、競馬場の職員と、二人の警察官に取り囲まれていた。
「パパ」
と私は、もう一度声に出して言ってみる。
「もうすぐ、お母さんが来るからね。君は、一人でここに来たんだよ。こういう所へは、一人で来
ちゃ駄目だ。もう、6歳なんだから解かるよね。お母さんも、とても心配しているよ。」
警察官のひとりは、とても優しく私に、言う。
「いっぱい泣いて喉が渇いただろう?なにか買ってくるけど、何が飲みたい?」
「ネクター」と私は言う。

 放課後のテニスコートで、私たちは懸命にボールを追いかけた。自分で言うのもなんだけど、
私は運動神経がとても良い。「きっと、パパ譲りね」とママは、言う。「パパはすごく運動神経よ
かったもの。頭は悪かったけど」と言って、笑う。
「ミカ、飲み物買いに行こう。」
麗子は、自販機の方を指差す。私たちは息を切らして、体育館の裏にある自販機で飲み物を
買う。「不二家ネクターなんて、懐かしい感じ、まだあるんだ。」と麗子は私の買ったネクターを
見つめる。
「私、子供の頃、ネクターがすごく好きだった気がする。」
昔、ネクターの缶は、もっと硬くて、口をつけると微かに鉄のような味がした。そして、その後
に、冷たく甘い液体が口一杯に広がるのだ。



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by holly-short | 2006-08-18 23:34 | 「お題小説」

上質な遺伝子 20

まるで統制のとれていないカオスのような棚の中からパンフレット
を引っ張り出す。山野さんも疲れ果てた様子で、パンフレットを探し
ている。
「山野さん、EVGENIAは、まだ鬱っぽいの?電話をかけても、全然で
ないの。」
私は作業する手を止めずに山野さんに尋ねる。
「うん。けっこう鬱が酷いみたいだ。薬をちゃんと飲んでないのかな?
あんまり効いていないように思うけど、今はこっちも仕事でてんてこ舞い
だから、あんまり気遣ってあげられなくて。今度病院に一緒に行ってみ
るよ。」
「そう」
私は、自分の探していたパンフレットを見つけると足早に客の待つ
カウンターへと戻った。

 例えば朝、目覚めるか、目覚めないかという、微妙な感覚の中で、
私は得体の知れない恐怖に包まれる。恐怖、そして罪悪感。私は、
おまじないのように唱える。考えちゃ駄目だ。考えたって答えは出な
いのだからと。正解なんてものは、存在しないのだと。私は、煙草を吸う。
ベランダに並べられた沢山の草花、主にハーブや、丈夫な観葉植物たち。
それらの発する小さな森のような匂いを深く吸い込む。大きなジョウロで
たっぷりと水をやる。朝食のパンを切る。昨日つくっておいたカボチャの
ポタージュを温める。チーズとハムをスライスする。夫を起こし、コーヒー
を入れてもらう。とても苦いエスプレッソコーヒー。夫は、やさしい。
ずっと前からやさしかった。私がヒステリックにさえならなければ、感情的
にさえならず、彼を追いつめさえしなければ。セックスなんて、なければ
いいのにと思う。男と女の関係なんて。
「おいしいね、」
夫は言う。
「うん」
私は、なんでこの人とここにこうしているのだろうと思う。テーブル越しに
同じ朝食を食べ、同じ朝を共有しているのだろうと。夫の唇が、肩が、手が、
とてもよそよそしく、動いている。私とほぼ同じ成分のものを食べ、形造ら
れているのにもかかわらず。まるで余所の子供を見ているみたいだ。感情が
湧かない。きっと、もうヒステリーになることもない。このまま、子宮なんて
なくなってしまえばいいのに、と思う。

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by holly-short | 2006-08-11 23:00 | 上質な遺伝子

上質な遺伝子 19

EVGENIA、彼女のことを想う。なんとなく、頭の片隅で。何回か気紛れ
に電話をしてみるが、彼女は電話をとらない。又は、不在で、おなじみ
の電子音は不安気に鳴り響くばかりだ。私は特別気にとめないようにし
た。気にとめるという行為そのものを偽善に感じ、あえてそのような感情
を無視した。なによりも、EVGENIAには山野さんがついているのだ。

 年末にかけて旅行会社は多忙を極めた。アルバイトで入っていた女の子
が一人突然来なくなってしまった。近所にあった別の旅行会社が閉鎖し、
そちらの客までもが一気にこちらに流れてきた。小さな旅行会社は、定員
オーバーの客を迎え、私達は許容範囲以上の労働を求められた。客は、
長い列をつくり、皆がイライラしていた。ミスも多く、普段なら起こりえない
ようなイージーミス、チケットの確認漏れ、紛失などが多発した。この時期、
私達はつねに謝罪を求められ、謝ってばかりいた。パートタイマーだった
私は、殆どフルタイムで出勤していた。しかし、それは私にとってむしろ
都合がよかった。労働をすること。その対価としてお給料をもらうこと。
この2つは、微かながらも、私に自立を感じさせてくれた。なにか自分とは
別のことに追われている状態、それは私にとって救いでもあった。泣きたいよう
な時、私は恋人の元に行く。彼は私が泣くのを咎めたりしない。頭を撫でて、
慰めてくれさえする。「仕事をして、お金をもらうということは、大変なことだ
よ。」とか、「仕事をする上で、最も難しいのが人間関係だね。」とか、
「たかが仕事だよ。」とか言ってくれる。泣いている理由は、仕事のことばかり
じゃないということも忘れて、私はとても救われた心地になる。恋人と話して
いる時、私の困難、私の苦しみは、とてもとるにたらない小さなもののよう
に思えてくる。夫を裏切っていることも、それによって自分が窮地に立た
されていることも。なにも考えたくない。明日死ぬかもしれないのに、その
先のことまで考えられない。今そこにある快楽を獲得する衝動。馬鹿みたい、
と解かりつつ、私は、自分が勇敢な恋に生きる女戦士にでもなったような気に
なってみる。そして、そのすぐ後に、欲求不満のただのだらしない平凡な女
みたいに。

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by holly-short | 2006-08-10 18:25 | 上質な遺伝子

上質な遺伝子 18

「私ね、あなたとこういう関係になったこと全然後悔していないの。
自分でもびっくりするくらい。むしろ、なにも考えていなかったのかも
しれない。ただ、あなたのことが好きで、気がついたら、こんな風に
なっていたって感じで。私、やっぱり馬鹿なのかな、」
彼は、笑う。すこし寂しそうに。
「そうだね。男と女の関係は、難しいよ。」
「ずっと、ひとりの人を愛し続けることが出来ればいいのにね。」
「そうだね。」
私の恋人は、とても女性を愛することが得意だった。妻と娘が1人ず
つ、どこかで暮らしていた。しかし、彼に家庭の気配はまるでなく、
3年程前まで、とても長くつき合っていた恋人がいて、たまに彼女の
話をした。
「ねえ、どうして、奥さんと離婚しないの?」
私は聞く。
「どうしてかな?その必要がないからでしょ。彼女の方から離婚した
いって言われれば話は、別だけど。娘もいるし、娘には迷惑をかけら
れないから。」
「迷惑?そうね。でも、前に別れた彼女だって、きっとあなたと結婚し
たかったんじゃないかしら。結局は、それが原因で別れたんじゃな
いの?」
「そうかもね。でも、法律で縛られなくちゃいられないような関係なん
てつまらんよ。」
「ふーん。」
恋人は私を引き寄せる。強い力で、執拗に。私を膝の上に乗せて背後
からきつく抱きしめる。私は、彼の方に向き直り、彼の胸に、うっすらと
脂肪のついたお腹に強く顔を埋める。
「好きよ。大好き。このプヨプヨとしたお腹も、顔も、匂いも、すべて、」
一旦抱かれると、私は深く満たされ、もうなにもいらいないような気分
になる。彼とこうしていること。それ以外は、どうでもいい、ぼんやりとし
た背景のように思えてくる。どこまでもいく。ひとつになる。混じりあう。
いき着くところまでいって、ふっと思う。まるで貼付けられたような感情。
私は一体どこに来て、どこに行ってしまうのだろうと、、、、。ヒステリー
は身を潜め、私の身体はとても満たされてしまう。この身体さえあれば、
感情なんてとるに足らないつまらないものに思えてくる。私は、家に
帰ると、4、5冊程のノートと、結婚して以来4年間かかさずつけていた
家計簿兼献立表を取り出し、きつくガムテープでぐるぐると巻きつけた。
はじめての七夕の夜にふたりで書いた短冊も、花札やオセロのゲーム
の勝敗を記したメモも、毎月必ずたてていた今月の目標も、自らを戒
める為の誓いの言葉も、すべてまとめて、燃えるゴミに出してしまう。
なんの躊躇もなく、むしろ哀しいくらいにスッキリとした気分で。

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by holly-short | 2006-08-10 00:08 | 上質な遺伝子

上質な遺伝子 17

EVGENIAとの連絡がしばし途絶えた。いつもみたいに、たまたま
彼女が鬱っぽかったから。そして、私自身も彼女を避けたから。
きっとその両方で、私は、彼女の鬱を利用したのだ。自分自身
でも気がつかない程の巧妙さで。
「ケーキを焼いたのよ。今から、行っても大丈夫?」
何日か振りにEVGENIAから電話をもらった。懐かしいEVGENIA
の声。ちょっと鬱っぽくて、重みのある柔らかい声色。
「ごめんね。今、お友達が来ているの。また後で電話するね。」
私は出来るだけ申し訳なさそうに言う。しかし、本音では、
EVGENIAのことを少し鬱陶しく感じている。
「ううん、いいのよ。じゃあ、後でね。」
彼女からの電話を切った後、私はすぐに出かけた。恋人の元に。
するすると、まるで引き寄せられるように。私が行くと彼はとても
嬉しそうにして、私を抱きしめてくれる。大きな身体で私に覆い
被さる。「大好きだよ、」と囁く。「顔も、身体も、性格も、全部全部
好きだよ、」と。私はとても満たされて、心と身体が一つになる。
そんな、気分に落ちいる。温かくて、すべすべとした彼の身体は、
甘く香ばしい匂いがする。その日、EVGENIAに私は、電話をし
なかった。

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by holly-short | 2006-08-08 23:44 | 上質な遺伝子