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コスモス

「先生、実はこの間、、、」
患者Aは頭を抱え込んでいる。眉間に皺を寄せ、口をへの字にして頭を何度となく横に振る。
「大変なことをしてしまいました。」
「なんですか?きちんと話してくれないと解りませんよ。」
メグはいつものように淡々と対応する。カルテを左手に、ボールペンを右手に持ちながらまるで
聴き取り調査でもするかのように患者Aが話し始めるのを忍耐強く待つ。ボールペンの尻でカ
ルテを軽く叩く。音が出ない程度に。これはメグの長年の癖だ。
「実はこの間、僕妊娠したんです。」
患者Aはさらに頭を抱え込み、髪を掻きむしる。
「でも、あなたは男性ですよ。もう54歳ですし、妊娠なんてする筈ありません。不可能です。」
「それが妊娠したのです。そして3ヶ月間妊娠して子供を生んだのです。」
「3ヶ月で?」
メグは看護士のキャサリンと顔を見合わせる。キャサリンは、堪えきれずに今にも笑い出しそう
だ。メグは、自制するようにとほんの一瞬キャサリンを睨みつけ、再び患者Aに視線を合わせ
る。
「そうです。子供を産みました。はじめてだったので、とってもとっても怖かった。」
患者Aは思い出すようにゆっくりと、一語一語を絞り出す。
「それでどうしたんですか?」
「僕、怖かったんです。」
「そうでしょうね。」
「自信がなかったんです。」
「解りますわ。」
「それで僕は、この手で赤ちゃんを殺してしまいました。」
「まあ、」
患者Aは泣き出さんばかりに、目を見開き、震える手で口を押さえる。
「そしてそこの花壇に埋めてしまいました。許されないことです。」と、声を震わせ嗚咽しはじめ
る。「僕のせいなんです。僕の赤ちゃんなのに、」と、最後には泣き出してしまう。
「大丈夫よ。あなたは赤ちゃんなんて殺してはいないわ。妊娠だってしていないし、そんなこと
はけして起こり得ないのよ。大丈夫。いつもよりも少し多めにお薬を出しますね。考え過ぎちゃ
駄目よ。」
メグは患者の背を優しくさすって、ポンポンと軽く励ますようにたたく。患者Aはキャサリンに連
れられて病棟に戻って行く。患者Aのカルテ、妄想癖のリストの最後尾「飛行ベルトを開発し
て石油を掘り当てた」の下に「妊娠3ヶ月で子供を出産、怖くなって殺して埋めた」と記載す
る。薬剤師にまわす処方箋にサインをする。メグはお腹をさする。私もいつか妊娠するのかし
ら?と思ってみる。考え過ぎちゃ駄目よ、子供は授かり物なんだからと自分自身に言い聞かせ
る。メグは40歳、独身で精神科医だ。診療所の窓から花壇を覗く。寂しげにコスモスが風に揺
れている。

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by holly-short | 2006-09-30 22:46 | メグ シリーズ

お魚みたいな彼

b0090823_20281754.jpgプールで頻繁に泳ぐようになって半年くらいがたつ。ワタシは元々平泳ぎしか出来ず、泳ぐよりも走る方が好きだったので、それまではあまりプールに行くことはなかった。スポーツクラブの会員なので、なにを使っても自由で、大抵ランニングマシーンか、サウナか、何発打ってもFREEの屋上にあるゴルフレンジで遊ぶか、その周囲にある一周100Mのトラックを走るか、そんな程度で行ったり行かなかったり。。。。はじめは、筋トレのクラスやヨガのクラスにも参加してみたりしたのだけど、、どうしてもああいう皆で同じ動きをするというクラスには馴染めないのだ。ダンスも嫌いだし、好きになりたいけど憧れはあるけど、どうしても駄目。センスが無いの。ゼロ。で、やる気も沸かないからいくらやってもステップすら覚えられない。ヨガなどはスローな動きに途中で飽きてしまい、いつの間にやら寝てしまう始末。で、結局楽しくないからこれまた辞めてしまう。孤独癖が強いのか?協調性がないのか?結局はひとりで黙々とやれるようなスポーツが肌に合うようです。身勝手な性格なのです。自由気ままとも言います。しかし、ずっと体育会系なので、運動は好きで、身体を動かしていないとちょっと気が狂いそうになる。で、しかたなしに走る。とりあえず、走る。ただ、走ると前々から足が痛くなるので、(酷い外反母趾の為でしょうか??)走るから、泳ぐに唐突に切り変えたのでした。それが、けっこう楽しくて今では週に3,4回くらいのんびり下手くそなクロールで泳いでいます。夏は水が冷たくて本当に心地良い。ヒエヒエに冷えたソーダゼリーの中に入ってしまったような気分になります。プールの後はお風呂に入って帰るので、経済的でもあるんだな、これが。
そして、ワタシのプールライフで、なによりも気になるのは、お魚みたいな彼。なんの情報も、もちろん話したこともないのですが、とにかく泳ぎが巧いのですよ。まるで水を得た魚のごとく、プールに入るともはや人間とは思えませぬ。色白で、端正な顔つきに、逆三角形の逞しい肉体美もあいまって、プールでは羨望の眼差しを独り占めしています。もはや女性だけでなく、男性の視線をも奪ってしまう程に。たぶん現役の水泳部か、元水泳部か、そんなところだとは思うのですが、もうまるで常人の泳ぎとは1ケタも2ケタも違うのです。それは正に、イルカ並。まず、壁をキックしてズーンと進む距離というか?伸びが違う!!イルカだけに、ドルフィンキックでぐんぐん25メートルの半分以上は潜ったまま進んでしまいます。でも、それだと泳ぐとこないので、しかたなく?適当に?あがってきては、泳ぎだすのですが、ほっとくどドルフィンキックのまま25メートル楽々と身体をゆらゆらさせながら潜水艦のように進んでしまう。バッと水面から顔を出したかと思うと凄い勢いでバタフライなどするので、周囲はちょっとビビります。すごい迫力と、美しさと速さに目を奪われます。同じ列で泳いでいた人などは彼の泳ぎにビビって、違う列にそそくさと移動してしまいます。私も経験がありますが、ホントに自分の泳ぎがいたたまれなくなり、そそくさとプールを後にしますた。彼が25メートルを泳ぐと、距離が縮んだのか?と思う程短く感じるの。で、その雰囲気を取り込んだまま泳いでみるのですが、やはり彼のようには泳げる筈がなく、25メートルは25メートルのままなのでした。

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by holly-short | 2006-09-26 20:29 | diary

上質な遺伝子 31

 博士の研究室は地下にあった。男は鉄製の扉の鍵をあけて地下へ
と繋がる階段を降りていった。ひんやりと薄暗くなんの装飾もない
コンクリートの打ちっぱなしの階段。コツコツと私たちの歩く足音が
やけに響く。さすがに男も私たちの不安を汲み取るかのように、
「心配はいらないよ。博士の部屋へ行くだけだから。」と説明をする。
「一応、博士に君たちが侵入したことを報告しなくてはいけないから
ね、」と付け加える。再び新たな扉が目の前に現れる。鮮やかな青いペンキ
でつるつるに塗られている。男は再びズボンから鍵を取り出し、扉を
開ける。
「ここが博士の部屋だよ。」
地下に広がる広い空間は、まるで小さな図書館のように壁全面に
本棚が据え付けられ、そこにはびっしりと本が並んでいる。中央に
ガランと広がる大きな空間には赤いソファがいくつか浮かぶように
置かれている。まるで、「2001年宇宙の旅」に出てくる宇宙船の中み
たいに近未来的で、洗練されている。大きく立派な木がいくつか
鉢植えにされ、無秩序に置かれている。バオバブの木のように
不思議な形をしているものや、こんもりとした小さな山のような形状を
したサボテン、植物の作り出す不可思議なシルエットが不思議と
この無機質な空間にマッチしている。男は、私たちに中央のソファに
座るように促し、奥の部屋へと消えていった。部屋はまだ奥へと
つながっていて、ここ全体は生活スペースとなっているようだ。シンプル
で無駄がなく、とても心地の良い空間。ずいぶん地下にあるのにも
かかわらず空気がとても澄んでいる。部屋の奥からはコーヒーの
香りが漂ってくる。どうやら男がコーヒーを煎れてくれているようだ。
「ねえ、私たちいこんな所に来てしまって大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だとは思うけど、不思議な展開だね」
「そんな悠長なこと言ってるけど、彼は銃を持っているのよ。銃は
犯罪なのよ」
「いくらなんでも、本物じゃないだろ。それに彼に殺意は感じないよ。
僕らが勝手に入り込んでしまったんだ。少ししたら、もうここを出よう。
ここもなかなか楽しいじゃないか。それに、夜は温泉だよ。ポカポカ
のんびりしようよ」と、彼は子供みたいに笑う。
「うん」
私も笑って、彼の腿に手を乗せる。彼はしっかりと、私の手を握って
くれる。しかし、私の笑顔はすぐに神妙な表情へと引き戻されてしまう。
男はコーヒーをトレーに乗せて、私たちの座るソファにやってくる。揃い
のカップアンドソーサーには、きっちりと同じ位置までコーヒーが注が
れている。彼は丁寧に私たちの目の前にあるローテーブルに4つ
のコーヒーを置いてくれる。コーヒーからは、それぞれ湯気が細く立ち
のぼる。
「博士はお風呂に入っていたよ。博士が来るまでの時間、コーヒーでも
飲んでいてよ。僕のコーヒーはとびきり美味しいはずだよ。なにしろ豆
から育てているからね」と彼は言い、コーヒーの香りをスーと一息に嗅いだ。
「本当に美味しい」
一口飲んで私がコーヒーを誉めると、彼はまんざらでもないという表情
で私に向かってカップを高々と持ち上げてみせる。次の瞬間、私は
一瞬で全身のコントロールを失う。手に持っていたカップはまるで
身勝手に堅い床へとまっ逆さまに落ちていく。スローモーションのようにカップ
が割れ、中のコーヒーが辺り一面炸裂する。私自身も、ぐらん、と一度
大きく揺らいでその場に崩れ落ちる。なにも見えない。真っ暗だ。その
うちもう闇すら存在しない。なにもなくなる。

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by holly-short | 2006-09-26 00:48 | 上質な遺伝子

上質な遺伝子 30

 私はもうすでに男に対して恐怖感を抱いてはいない。彼が私達を何
らかの目的で騙しているのだとは思えなかった。もしもそうであれば、
もう少し自然な演技をしてもよさそうなものだ。彼の身なり、薄汚い
白衣やただ伸びるがままのロン毛、喋り方や身のこなしは、どこか
社会性に欠けている。もしかしら、頭がおかしいのかもしれない。
本当に頭のおかしい人間は、一見まるで常人のように見えると言う
ではないか。社会性に欠けた常人。矛盾している。しかし、なにより
も彼のポケットには銃が入っているのだ。もちろん本物かどうかは
疑わしいところだが、偽物という確信だってない。
「ここは、どういう施設なんですか?」
恋人は歩きながら何気なく男に問いかけた。
「ここ?そうだよね。秘密だけど、元々はね、国の施設だったんだ。世界
各国からさまざまな植物を集めて育てているよ」
「とても珍しい植物ばかりね」
私は関心したように言う。いや、心底本当に関心している。
「だね。ここにある植物は本当に貴重なものばかりだよ。恐らく日本では
ここでしか見ることのできないものばかり。でも、半分以上はダミー
だよ。どこにでもある植物さ。」
「ダミー?」
「そう。簡単に見わけがつかないように色々な植物を育てている。実際に
研究の対象となっているのは、2割くらいかな。」
「研究?」
「そう。ここはね、研究施設なんだ。主に薬の研究をしているよ。植物に
は不思議な力があるんだ。人間は長い時間をかけてその効能を開発し
てきた。それこそ人間がまだ人間でもなく、哺乳類でもなかった時代から
さ。さまざまな植物の効能を体内に取り込み、恩恵を被ってきたと言って
も過言ではないよ。長い長い年月のなかで、偶然にも、必然的に発見さ
れ、知り、伝え、受け継がれ、生き残ってきた植物のパワーって奴さ。
その積み重ねこそが現代の薬学さ。ただ、最近は、科学的な薬物が
主流だから、植物そのものを研究する人間は少なくなったよね。ピン
ポイントで悪しきものをシャットダウンするような薬が好まれる時代さ。
しかし、悪しきものが無くなった所で、悪しきゆえんが存在する限り、
完治したとは言い難いよね。時間。それこそが偉大なんだよ。フフフフフ。
僕はね、ここで植物の世話と博士のアシスタントを任されている。
もう僕はここに来て15年になるよね。博士は、もっと長いよ。まだこの
ドームが出来る前から、ずっとここで暮らしているんだ。」
「博士とあなたの他には誰かいるのかしら?」
「いや、2人だけだ。ここはとても秘密な場所なんだ。沢山の人をいれ
たら、秘密は守れないでしょ。人間てーのは、実に口が軽い生き物だ
からね。」と男は言い、クックックッと気味悪く笑う。私と恋人は、一瞬顔を
見合わせ、互いに神妙な苦笑いを浮かべる。しかし、今の私達には、
現行男の後をついて歩く、それ以外の選択は見当たらなかった。

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by holly-short | 2006-09-23 00:58 | 上質な遺伝子

歯の問題。。

歯が痛い。痛い。痛―い。


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昨日、ふっとした瞬間に歯が痛くなりそれがいつまでも治まらない。そのうち歯だけでなく、歯の奥の方を通りすぎ脳みそまで痛みが達し、頭痛へと変化。激しい頭痛に頭をかかえ、ヴァファリンを飲んで横になり、ゴロゴロのたうち回っていた。一旦、頭痛がなんとなく治まり、お風呂に入ったり死ぬ程歯を磨いたりするものの(もうすでに手遅れなんだけど気休めさ)再度!頭痛に見舞われ、ダウン。と、いっても頭痛が邪魔して眠れん。歯が痛いので歯を食いしばると、なんとなく一瞬心地よいものの更に痛みを助長しているような感も否めない。あ~もうペンチで歯を抜いてしまいたい、しまおうか?、抜いてやるゥゥゥゥ!なんてなんて、お布団の上をぐるんぐるん回転しつつ、時たま訪れる浅い眠りを何度も邪魔されつつ、どうにか朝を迎えたのでした。痛~い。もうこれ以上我慢しきれん。ってことで会社に遅刻する旨を連絡し、さっそく朝一番で歯医者に行ってまいりました。
「なんでもいいから、はやく直してください。」と開口一番先生に懇願。
レントゲンをとり、麻酔をかけ、麻酔がかかる間はなぜか歯のクリーニングなどもしてもらう。(強制的に)ここの歯医者の歯科衛生士のお姉さんは本当に可愛いくて、思わず見とれちゃう程だ。肌が白くて、透き通っていて、茹で卵みたい。思わず「どこのファンデーション使ってるんですか?」って聞こうかと思っちゃった。睫も長くて、目が大きくて、「もっと、大きく口をアーンと開けてくださいね」なんて言うもんだから、男性にはたまらないだろうな。。。。なんて麻酔が効いて余裕が出てきたところで、削って、被せてるものを取り除き、さらにぐんぐん削って、結局神経をごっそり取り抜いてもらいました。



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はああ〜スッキリ。

嘘のように痛みが消えてしまわれた。
痛みよ、何処へ?    @-:

しかし、こんなに簡単に神経を取っちゃってよかったんだろうか?って今は冷静に疑問に思ってみるが、現場ではそんな疑問を抱く余裕も選択枠もなかった。とにかくこの頭痛を止めて!プリーズ!ヘルプミー!!!って感じだった。神経って抜くと歯の寿命がたしか縮まるんだよね。私もいずれは、差し歯か入れ歯になるのかしら、、、、、。がっくし。虫歯になりにくい体質だと思っていたのですが、不覚でした。後、3回は歯医者に通う必要があるとのこと。次回は、どこのファンデーションを使っているか聞くかな、、、。でも、肌も歯もようは素材と鮮度の問題?って気もしないでもないな。。。。:-P。

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by holly-short | 2006-09-22 22:22 | diary

上質な遺伝子 29

「一体、おまえたちは、誰だ?」
男はしばらく銃口を私に向けたまま、無表情に言った。
「誰って?僕たちは、植物園を見物していただけなんです。誰も
いなかったから、無断で入って来てしまった。申し訳ない。お願い
だから銃は下げてくれ。」
恋人は、両手をあげて彼の前に一歩進んだ。男は銃口を恋人に向け
るが、そこにはもはや緊迫感はなく、なんとなく向けたといった感じに
過ぎない。
「見物ゥ?組織の人間じゃないわけ?」
「組織?」
私は、恋人の手を強く握ったまま、聞き返した。温室内はムンと暑いのに、
一気に冷えた身体中の汗で肌寒い。まるで別世界に入り込んだみたいに
現実感がない。しかし、にもかかわらず五感は鋭く研ぎ澄まされ鋭敏と
している。サボテンの力強い存在感と鼻につく独特の香りに飲み込まれて
しまいそうになる。
「僕らは、ただの見物客だ。観光ついでに植物園でも眺めようかと思って
軽い気持ちで来た、本当にただそれだけなんだ。」
恋人は両手をあげたまま、訴えるようにゆっくりと繰り返す。
男は銃をさげ、首をかしげるようにして白衣のポケットにそれを落とすように
仕舞い込んだ。
「なんだ観光客か。でも、どうやって入ったわけ?鍵がかかっていたでしょ。
ここは、一般に公開されているような植物園とはまるで違うよ。ある限ら
れた人達しか入れない特別な場所なのに。」
「扉は開いていたのよ。チケット売り場でお金を払おうとしたんだけど、
券売機も、従業員も見当たらなくて、そのまま入ってきてしまったの。
ごめんなさい。」
「そう、鍵が開いていたの?ふむふむ、他に誰にも出会わなかった?変な
白い髭を生やした爺さんとか、」
彼はどっしりと大きく、冷淡な風貌には不釣り合いな高く柔らかい声で
喋る。私達は、同時に首を横にふる。
「そう、じゃあ博士が鍵を閉め忘れたんだ。ついでに警報機のスウィッチ
も切れているってことだね。最近、博士もボケが酷くてね。まったく本当に
僕は困っているよ。」
男は、後ろで結んだもしゃもしゃと細く天然パーマのかかった髪の毛を
手で掻きむしった。彼は、私たちについてくるようにと促し、温室に鍵を
かけた。
「ここは、もう老朽化しているんだ。施設も博士もね。代り映えなく、いや
むしろ今こそすばらしく成長を続けているのは、この植物たちだけだ。」
と首を傾げる。私達は彼の後についてジャングルさながらの鬱蒼と茂る
植物の合間をぬって歩いた。

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by holly-short | 2006-09-20 22:43 | 上質な遺伝子

上質な遺伝子 28

 途中、私たちはマクドナルドのドライブスルーに寄り、車内で簡単に
昼食を済ませた。
「マクドナルドなんて、結婚して依頼食べたことない、」と私が言うと、
彼は笑って、「信じられない、現代人じゃないみたいだ、」と言う。
「マクドナルドに現代をあてはめるその感覚こそが、時代錯誤よ。
私の方こそジェネレーションギャップ感じちゃう」と私が言うと、彼は、
「うるへー早く喰え、」と口一杯にビックマックを頬張り、次から次へと
フライドポテトを口に放り込む。久しぶりに食べたチーズバーガーは
意外なくらいに美味しい。なんで、私はずっと長い間、マクドナルドを
食べてなかったのかしら。多分、健康に悪いから。夫だって、ジャンク
フードの類いは、毛嫌いしていた。そんな下品なものわざわざ食べる
必要ないじゃないかと、冗談半分に。彼は、上品な人なのだ。人は
食によって作られる。上質な人間は、上質な食べ物を食べる事によって、
上質になるのだろうか。厳選された素材と手間暇かけた料理。私自身、
出来る限り食生活には気を使うようにしていた。
 道中、サボテン植物園と書かれた小さな看板を見つけて、私は「あそこ
に行ってみたい、」と彼に訴える。彼は、「了解」と言って、看板に示され
た矢印の方向にハンドルをきる。ドーム型をしたガラス張りのサボテン
植物園は、深い森の中で、まるで未来から落ちてきたオブジェのよう
だ。もっともチケット売り場は、閑散としていて誰も人がいない。チケット
売り場といっても、そこにはチケットを売る自販売機も、カウンターもなく、
そこはドームへと繋がる小さな空間にすぎない。そこには、青いソファー
が2つと、ローテーブルが1つ置かれている。両側の壁に備え付けられた
本棚には大量の学術本や学術雑誌がずらりと並んでいる。壁にかかる
コルクボードに、「チケット売り場」とへたくそな字で書かれていなければ、
そこはまるで個人のプライベートな空間のようにも思えてくる。私たちは、
お金を払わずに、薄暗いドームの中に足を踏み入れた。ドーム内は、
薄暗く外に比べると随分と温かい。ムンとする植物の強い匂い、黴臭さと、
甘さ、苦さ、清涼感が入り混じったような独特の空気感。湿度は高く、
周囲がねっとりと、わずかに重たく感じる。
「勝手にはいってきちゃって大丈夫なの?」
私が不安げに言うと、彼は私の手をとり、「大丈夫だよ。誰かに出会ったら、
その時お金を払えばいいさ。」と呑気に答え、鬱蒼と植物の生い茂る
ドームの中を突き進んでいく。サボテン植物園の中では、サボテンだけ
でなく、さまざまな植物が育てられている。それらは、見たこともないような
不思議な植物ばかりだ。管理が行き届いているのか、余程環境がいい
のか、みな生き生きと精気に満ち溢れ、勝手気ままに枝葉を伸ばしている。
普通、植物園であれば、植物の名前が書かれたプレートの1つでも、
あってよさそうなものなのだが、そのようなものは一切見当たらない。その
代わり植物本体に小さなタグが取り付けられている。タグには、小さな番号
がひとつずつふられている。肉厚な葉を広げ、枝の太い、くにゃくにゃと
枝をくねらせた、葉の形が個性的な、根っこがこんもり盛り上がった、
鋭い棘に囲まれた、大きな妖艶な花をぶら下げた、甘ったるい不思議な
香りを放つ、どす黒い、大きな奇妙な形をした実をつける、
さまざまな植物たち。そんな奇妙な植物群を眺めながら、私と恋人はドーム
の奥へ、奥へと進んだ。ドームの中央部分に進めば進む程、植物は
より一層鬱蒼と生い茂り、巨大な、または背の高い植物が無秩序に植えら
れている。私は、深く息を吸う。深く吸って、ゆっくりと吐く。植物によって
浄化され吐き出された濃厚な酸素は、透明感に満ちている。植物たちの
息づかいが体内に染み込み、私はまるでこのドーム全体の植物群の一部
と化し溶け込んだような心地になる。ドームの中央部は大きな穴のような
池が水をたっぷりと蓄えていた。池には巨大な円盤形の植物がいくつも
浮いている。私は思わず指をさす。
「あっ」という声と共に。
「あの丸い植物。幼い頃、植物図鑑で見たわ。あの上に小さな女の子が
乗ってアイスクリームを食べている写真。」
「乗ってみたら?」
「もう、無理よ。きっと今乗ったら、私共々沈んじゃうわ。」
「そうだね。今、ここで沈まれても僕も困る。」
池を通り過ぎ、再び鬱蒼とした植物群の中へ、私達はまるでなにかに
突き動かされるように吸い込まれていった。私は、もうすでにマフラー
をはずし、コートを脱ぎ、セーター1枚でも暑いくらいだった。つながれた
ままの恋人と私の手も、じっとりと汗ばんでいる。少し進むと、小さなビニール
ハウスが建っている。ビニールハウスは、よく見ると全面ガラス製で、分厚い
曇ガラスで出来ている。中央部分にぶら下がっている電球の光が、曇ガラス
を通して、不揃いな緑色のシルエットを美しく映し出している。まるで緑色の
光を淡く放つ、宝石箱のように。見るからに頑丈そうな錠前の鍵は、扉にぶら
下がったまま、開錠されている、私達は躊躇なく中に進んだ。まるでロール
プレーイングゲームの主人公のように。鍵は、開けられている。これは進めと
いうサインだ。進め。ゴー。宝は、箱の中にある。
「すごい。」
ガラス張りの温室の中には、大小様々なサボテンの鉢が所狭しと並べられていた。
生命力に満ち、奇妙で、珍しいサボテンの数々。どれも美しく、つやつやと鮮やかだ。
「きれい。こんなサボテン見たことない。」
私が、目の前のサボテンに思わず手を伸ばそうとした、その瞬間、私と
恋人の背後に1人の男性が立っていた。手には銃を持ち、銃口はまっすぐに
私へと向けられている。一瞬、私は何が何だか解らなくなる。男性は40代
くらい。恰幅よく、薄汚れた白衣を着て、長いくしゃくしゃとした髪を後ろで
ひとつに束ねている。2つの丸いレンズの奥で、瞳は冷たく私を見つめている。
植物に包まれた柔らかい空気の中で、鈍く光る重厚な銃の存在感は、
まるで重力そのもののように暴力的に私たちを引き寄せる。身体全体が
釘付けになる。そうだ、これはゲームなんだ。銃だ。敵が私に銃を向けている。
私の武器は?回避する方法は?私はどこでミスを犯したのだろう。私は、
このままここで死ぬんだ。GAME OVER.

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by holly-short | 2006-09-14 23:43 | 上質な遺伝子

ショートショートが書きたい。


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ブログをはじめたきっかけは、妹の洋裁系のブログのヘルプとして、短編小説や、ちょっとした
日記風の文章を書くとうところからはじまったのでありました。妹は、自宅で簡単な洋裁教室み
たいなのをしているので、ブログは彼女のホームページの一部であり、宣伝でもあったので
す。それは、彼女の洋裁日記の合間合間に、ちょっとした読み物風の文章があるみたいな感
じ。そして、彼女はオシャレな洋裁教室、たとえばワインなんか飲みながら、おしゃべりしつ
つ、フルーツなんかをつまみつつ、ムーディーな音楽が流れる中で、優雅に洋裁する!なんつ
ー(アメリカで流行った?流行ってる?セレブの通うニットのWORKSHOP、SUSU DESIGNみた
いなの)のを目指していたので、私もそれなりにオシャレな文章を書くように強要されました。
実際書いたものが、いかにオシャレか?は大いに疑問だけど、それまで全然文章を書いていな
かった私としては、高校時代のホームワークの延長みたいなノリで、どこか懐かしく、とても楽
しめた。もともと文章を書くのは好きだったし、ぐっすり眠っていた?執筆意欲に火がついた?み
たいな気分で、とてもよいチャンスをくれた妹に感謝したくらい。しかし、そのうち、ブログの世
界ではよくあることなのかもしれませぬが、、、妹がブログに時間をとられるのに疲れ果て、面
倒になり、苦痛になり、嫌気がさし、
「お姉ちゃん、私ブログ辞めるね」
「バイバーイ」
とおっしゃるので、私の芽生えたばかりの「やる気?みたいなもの」は、宙ぶらりこの状態に投げ
出され行き場を失い、彷徨ってしまった。そこで、せっかくだから自分でやるか!とはじめたが、
「CHOCOLATE BAR」、、、、、、、。
タイトルは、ネタ帳として妹が画像と文章をコピーペーストしやすいようFC2で私が作成してい
たブログのスキンがチョコレートという名前だったとこからきている。結構安易、、、。とろーり
チョコレートがとろけているようなブラウンのスキン、けっこう気に入っていたのですが、新規一
転新たな気持ちで!と、exciteでブログをたちあげ直したのでした。CHOCOLATEにBARをつ
けたのは、短編小説のひとつひとつがチョコレートの1粒1粒みたいに、甘くほろ苦く美味しいと
いいな、という気持ちを込めて、総じて箱としてのブログに場所をイメージさせるBARを付け
足した。FACTORYとか、SHOPとか、なんでもよかったんだけど、なんとなくその時の私には
BARがしっくりきたのです。チョコバー(スニッカーズとかマーズ)とも意味がとれるし、いいか
なーなんて、、、あんまなにも考えてなかったのですね。そして、もっと1粒で美味しいみたい
な短編小説というか、1粒サイズのショートショートみたいなものを書きたかったのです
が、、、、なぜかダラダラと長いお話を書き続けている。。。。はやく終わらせろ!自分。そして、
私はショートショートが書きたい。でも、けっこう書けないものです。短く、読ませる文章って実
はとっても難しい。そういうのって訓練すれば書けるようになるものなのかしらん。。。
下の画像は妹のやってる洋裁教室のホームページより。洋裁教室は、とりあえず続いているよ
うです。なかなか、オシャレに優雅にとはいかないようですが、、、、現実はいつだって厳しいも
のですね。。。。。
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by holly-short | 2006-09-14 00:09 | diary

上質な遺伝子 27

 「ねえ、なんで奥さんと子供を残して、別の女の人のところへ行って
しまったのかしら?」
車内は温かく、体内でくすぶっていたアルコールは徐々に酔いへと変化
した。私は、心地よくゆったりとした酔いに身を任せた。
「どうしてだろう、」
恋人は真直ぐ前を向き、真剣な表情でハンドルを握る。しっかりとした
鼻筋、鋭く優しい目、まるで野生動物のように彼は、美しい。
「たぶん、つまらなくなっちゃったんだ。毎日が。彼女には申し訳ない
けど、それが正直なところかな。彼女は美人で、料理もうまいし、社交的
で、なにをやらせてもテキパキこなす申し分ない女性だった。でも、長い
結婚生活でちょっとずつすれ違っちゃったんだ。」
「どうしてかしら?」
「なんだか、今日は厳しいね。酔っ払ってるの?」
彼は苦笑いして、私の頭にポンと手を置く。
「ううん。酔っ払ってなんかいないわよ。私は酔っ払っても、頭はいつも
冷静なのよ。まるで冷蔵庫でキンキンに冷やされたマリネのごとく。
ただ、素直に疑問に思ったの。なんで男と女って、こうなのかしらっ
て、」
私は彼の横顔にそっと口づけする。
「そうだなあ。彼女の一人をずっと好きでい続けることが出来なかった
んだ。勿論、ちがう人間同士が同じ屋根の下で暮らしてるわけだから、
お互い意見や気持ちの食い違いもあったんだけど、それでもなおと
いう気持ちには、なれなかった。それで、彼女とはセックスできなく
なってしまったんだ。それは、別に彼女のせいでもなく、彼女が嫌いに
なったわけでもないけど、彼女と気持ちが通わなくなってしまったんだ。」
「でも、それは奥さん以外に相手がいたからでしょ?」
「うん。こんなこと言ったら人格を疑われるかもしれないけど、僕はまだ
若かったし、実際すごくよくもてたんだ。たとえば、母親のことは尊敬し
ているし、育ててもらった感謝もある。とてもいい人だと思うけど、肉体
関係は無理だ。そんなことを母親とするなんて気持ち悪いと思ってし
まう。正にそんな感じになってしまった。彼女には大変もうしわけない
けど、正直に言うとそんなところかな。」
「なんだか、寂しいわ。」
「そうだね。ごめん。」
「ううん。私が聞いたのよ。答えなんてだいたい検討がついたのにね。
いくら冷静でも、頭が悪いんじゃあ、どうしょうもないわ。」
「そんなことないよ。俺が悪いんだから。ごめん。それに君は、
けして頭が悪くないよ。」
彼は再び、私の足を掴んで、彼の元に引き寄せる。今度は、私自ら
靴下を脱ぎ、裸足になって、彼の腿に足を乗せる。
「冷たい足だ。」
彼は私の足をしっかりと握って、温めてくれる。車は、険しい山道を
滑らかに走り抜けていく。彼はとても運転がうまい。たぶんセンスがいい
のだ。運転も、女の扱いも。私は、もう何も言わず、心地よいままに
車の振動に身を任せた。

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by holly-short | 2006-09-11 23:38 | 上質な遺伝子

上質な遺伝子 26

 私たちは、世間一般で言うところの、不倫関係にあり、それは非難され
るべく行為であるにもかかわらず、私たちはとても健康的で明るかった。
それは、私達が他人の痛みの解からない無神経な人間であるからかも
しれない。又、誰にとってもこのような状況に陥れば、そう願いたいと
いう気持ちも含め、事態を美化するものなのかもしれない。私は、彼の
となりで、とても満たされて幸せな自分自身を発見する。何度も。彼は、
運転中にもかかわらず、私の足を引き寄せ、自分の腿の上にのせる。
靴下を脱がせて、なでたり、ひねったり、くすぐったりする。「汚いよ、」
と私が言ってもお構いなしに、口づけをしたり、かじったりする。まるで
子供みたいに。
「2人で、車に乗って温泉に行かれるなんて、夢みたいだね。」と、嬉しそ
うに言う。私もつられて、「本当に夢みたい。」と言う。夫でない人と、温泉
旅行に出かけるなんて、と思ってみる。
 私たちは、海辺の小さな漁港に寄り道した。手をつないで、海辺を歩く。
冬の海はとても寂しい。私はマフラーをして、彼のグレーのニット帽を
深々とかぶる。彼は、寒がりなので、これでもかと厚着をしている。握ら
れているほうの手は、彼のダウンジャケットのポケットに入れて、左手は
自分のコートのポケットに入れる。彼の手は温かく、私は彼の右へいった
り左へいったりしながら、両手を順番に温める。寒すぎて、無口になる。
私たちは、殺風景な堤防をのろのろと歩く。途中、釣りをするお爺さんの
バケツの中を覗く。水のないバケツの中で、小さな魚がゆっくりとヒレを
動かし、呼吸をしている。恋人は、お爺さんと、天気のことや、今時分釣
れる魚のことなどについて話す。彼は、誰とでも、何処でも、すぐに打解け
てしまう。お爺さんは、ジャケットのポケットからウイスキーのミニボトル
を取り出し、アルミ製の小さなカップに琥珀色のとろりとした液体をぐい
ぐいと注ぐ。「よかったら、ふたりで飲んでよ。温まるよ。」と無造作に
それを手渡す。恋人は、自分は運転手だからと言って、私にコップを
手渡す。アルミ製の古びて歪んだコップは、とても冷たく、寒々しい。
私は、自分がシベリアに送られた囚人であり、作業中に心優しい警備員
のお爺さんが、こっそりとお酒をわけてくれているのだと、思ってみる。
凍てつくように冷たい液体は、体内に入ると同時に熱を帯び、身体全体
にじんわりと広がった。私が美味しいと言うと、お爺さんは再びジャケットに
手を突っ込み、チーズやマカデミアナッツ、チョコレートなどをくれた。私は、
チョコレートを食べ、チーズを齧り、ちびちびとウイスキーを舐めた。恋人は、
お爺さんと一緒に煙草をふかした。
 私たちは再び車に乗り込む。 車は、海を離れずんずんと山の中へ、入って
いった。

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by holly-short | 2006-09-07 18:51 | 上質な遺伝子